家族が高齢になると、ひとりで食事をとることが難しく介助が必要になることがあります。
食事介助の基本は、「自分でできることは本人にまかせ、できないところを手伝う」ことです。
本記事では、在宅での食事介助の具体的なポイントを、食前の準備、食事中、食後に分けてご紹介します。また、後半では、認知症など症例ごとの食事介助のコツも解説します。
1.食事介助が必要な人とは
食事介助が必要となるのは、主に以下のような場合です。
食事介助が必要な場合① 体の機能が低下している
高齢になると、筋力が弱まってお箸やスプーンなどをうまく持てなかったり、食事中に疲れて眠ってしまったりすることがあります。食事でしっかりと栄養をとるためにも、食事介助が必要です。
食事介助が必要な場合② 病気やケガの後遺症などで麻痺などがある
病気やケガなどで麻痺があり、お箸やスプーンを使いづらい、飲み込む力が弱い、といった場合も適切な食事介助でスムーズに食事をとれます。
食事介助が必要な場合③ 噛む力や飲み込む力が低下している
加齢や病気などによって、食べものを噛む力、飲み込む力が弱くなります。 噛む力や飲み込む力が弱くなると、食べものを食道ではなく気管に送り込んでしまう「誤嚥(ごえん)」が起きやすくなります。 肺炎の原因となる誤嚥を防ぐためにも、食事介助の必要性が高まります。
▼誤嚥予防について詳しくはこちら食事介助が必要な場合④ 認知機能が低下している
認知症が進むと、目の前のものが食べものであるかどうかわからない、お箸やスプーンの使い方がわからない、などの症状が出る場合があり、食事介助の必要性が高まります。
2.食前準備 6つのポイント
食事の前には、以下の6つの準備をしましょう。- 声がけ・体調の確認
- トイレ・手洗い
- 部屋を整える
- 口腔ケア
- 姿勢を整える
- 献立の説明
食前準備のポイント① 声がけ・体調の確認
高齢者の方は、日中でもソファやいすに座ったままうとうと眠ってしまうことがあるでしょう。
しっかり目が覚めていないままでは、誤嚥の危険が高まります。
「〇時ですよ、そろそろお食事にしましょうか」など声をかけたり、肩を軽くたたいたりして目を覚まし、意識がしっかりした状態で食事を始めましょう。
また、「今日のお昼のメニューは〇〇だけど、食べられそう?」「具合悪くない?」など、食欲の有無や体調を確認してみましょう。
食前準備のポイント② トイレ・手洗い
食事を始める前にトイレと手洗いを済ませます。
食事中にトイレに行きたくなると、我慢してしまったり、逆に、トイレに行くために慌てて食べる、といったことが起こります。
また、認知機能が低下した方は、食事の途中で席を立つと自分が食事中であったことを忘れて混乱することがあります。
食事前の排泄から体調の変化に気づくこともできますので、トイレと手洗いは忘れずに済ませましょう。
食前準備のポイント③ 部屋を整える
注意が散漫になることも、誤嚥のリスクを高めます。
ご本人の目に入る情報をできるだけ減らして食事に集中できる環境をつくります。部屋を片づける余裕が無い場合は、散らかっている場所に布をかけて一時的に隠すだけでもOKです。
テレビはできるだけ消します。音楽は、小さな音量で流すと気分転換になる場合もあります。
また、部屋の匂いにも配慮しましょう。
食事をとる部屋にポータブルトイレを置いている場合など、匂いのために食欲がわかなくなることがあります。食事前に換気をして空気を入れ替えましょう。
食前準備のポイント④ 口腔ケア
■うがい・歯磨き
食事の「前」のうがいや歯磨き、というのは少し意外かもしれません。
高齢の方は唾液の量が少なくなり、口の中が乾燥しやすくなります。
口の中が乾燥すると食べものが口の中に貼りつきやすく、うまく噛んだり飲み込んだりしづらくなります。
また、口の中に細菌が残ったまま食事を始めて誤嚥してしまった場合、細菌が原因で肺炎を起こすリスクが高くなります。
スムーズな食事や誤嚥性肺炎の予防のために、食事の「前」にも口の中を清潔にしましょう。
■口の体操(口腔体操)
口の中や口の周りの筋肉を動かすと唾液が出やすくなります。
唾液が出ると、誤嚥やむせ、咳き込みなどが予防できます。
「パタカラ体操」、早口言葉や唾液腺マッサージなど、食事の前のお口の体操を習慣にするといいですね。
▼「パタカラ体操」について詳しくはこちら
※口腔体操 関連記事(他サイトに飛びます)
▶オーラルフレイル対策のための口腔体操 日本歯科医師会
※「噛んで飲み込むパワー」をつける体操、「舌のパワー」をつける体操など、動画を交えて紹介されています。食前準備のポイント⑤ 姿勢を整える
誤嚥予防のために、姿勢を整えることはとても大切です。
■いすや車いすに座っている場合
深く腰掛け、やや前かがみの姿勢になるようにします。
いすの場合、足の裏は床にしっかりと着けます。 車いすの場合、足をフットステップにしっかり安定させます。下半身が安定しない状態では、食べられる量が減ることもあるため、足元はきちんと調整しましょう。
テーブルは、テーブルに乗せた肘が90度に曲がるくらいの高さが最適です。食事をしっかりと目で確認しながら食べられます。
姿勢が安定しづらい場合は、背中と背もたれの間にクッションやタオルなどを入れて、骨盤ができるだけ90度に近い角度に起き上がるよう調整しましょう。
■ベッドで食事をとる場合
大きないすに座っているような姿勢になるよう、ベッドのリクライニング機能で調整します。上体を起こし、あごと胸の間に指が4本入る程度の高さに調整すると誤嚥しにくくなります。
姿勢が安定しづらい場合はタオルやクッションを使って、ベッドと体のすき間を埋めます。
膝上げ機能がついているベッドでは、足が浮いた状態になることもあります。クッションや丸めたタオルなどを足の裏にぴったり置き、足元が安定するように調整します。
食前準備のポイント⑥ 献立の説明
食事の時間を楽しく過ごすきっかけとして、献立の説明はおすすめです。
「いい匂いだね」「あたたかいね」「にんじんが入ってるね」
など、食事に興味を持ってもらえるような声がけをしましょう。
味覚や嗅覚、視力が弱まると、何を食べているのか自分ではよく理解しづらくなっている場合があります。また、ミキサー食やペースト食は、食事内容がわかりづらいことが多いので、説明することで安心して口に運ぶことができます。
3.食事中 5つのポイント
ここからは、食事中のポイントを5つご紹介します。- 横に座って介助する
- 水分補給(飲水)
- 少量ずつ口に運ぶ
- 適切なタイミングでの声がけ
- 30分程度で食べ終わる
食事中のポイント① 横に座って介助する
食事介助の基本は「食べている人の横で、目の高さを合わせる」です。
立って介助すると、食べる方が介助者を見上げるかたちになります。 介助者を見上げると、食べる方のあごが上がり、誤嚥の原因となります。
食事のお皿などに視線を落とし、あごをひいた状態でしっかり飲み込めるよう、介助する方は食べる方の横に座りましょう。
食事中のポイント② 水分補給(飲水)
食べものを口に運ぶ前に水分をとり、口の中を湿らせます。
口の中が湿ると、飲み込みがスムーズになります。食事の合間もこまめに水分を補給しましょう。
食事中のポイント③ 少量ずつ口に運ぶ
誤嚥を防止するため、食べものは少量ずつ口に運ぶようにしましょう。
高齢の方が一度に飲み込める量は10ml程度と言われます。 これは、一般的なカレースプーンの一口量(約15~20ml)よりも少ない量です。
一度に飲み込み切れず、何度も「ごっくん」を繰り返すうちに、飲み込みと呼吸のタイミングが合わなくなってむせてしまうこともあります。
また、スプーンは口の奥には入れないようにします。食べる方が口を閉じたタイミングで、スプーンを軽く舌に押し付けるようにしてすーっと引き抜きます。スプーンを引き抜く際も、食べる方のあごが上を向かないよう気を付けます。
がんや麻痺などによって食べることに苦痛を経験した方々が、食べる喜びを取り戻すきっかけを作りたい。そんな思いから看護師やがん経験者のメンバーによってオープンしたのが猫舌堂です。
猫舌堂のオリジナルカトラリー「iisazy (イイサジー)」は、口の中に入る部分が薄くて小さく、少量ずつ食べるのに使いやすい設計です。また、平たい形のため口からすーっとまっすぐ引き抜けるので、食べる方、食事介助にあたる方のどちらもが使いやすいスプーンです。
口の中に入る部分は1mm単位で削りだし、口の中で感じる微妙なズレを何度も改善しながら開発しました。
生きることは食べること。
食べることは生きること。
家族や大切な人との食事がもっと楽しくなるスプーンが、「くちびるが感動する」体験をお届けします。
■iisazy スプーン(左)
一般的なスプーンは厚みと角度があるため、口に入れて引き抜くときに上くちびるに「ガチッ」と当たってしまいます。iisazyは薄く平たい設計なので、口が開きづらい方でも口から「すぅー-っ」と引き抜けます。
■iisazyフォーク(右)
iisazyスプーン同様、薄く平たい設計です。幅が狭くフォークの歯が浅いので、パスタなどの麺料理もちょうどよい量を巻き取れます。
食事中のポイント④ 適切なタイミングでの声がけ
誤嚥を防ぐためにも、「噛みましょうね」「飲み込みましょう」と声をかけます。 食事に関する会話がはずむと、よい食事の時間にもなるでしょう。
ただし、食べものを噛んだり飲み込もうとしているときに話しかけるのはNGです。 会話に答えようとして食べものがのどにつまったりする危険があります。
食事中のポイント⑤ 30分程度で食べ終わる
食事にかける時間の目安は30分です。
30分以上時間をかけると食べる方が疲れ、集中力が途切れます。 集中力の途切れは誤嚥の原因となります。
食事中、急に息が荒くなった、会話に返事をしなくなった、咳が止まらなくなった、などの症状が出た場合、誤嚥の可能性があります。
誤嚥かな?と思ったら、以下のように対応しましょう。
- 頭を低く下げた前かがみの姿勢にして、背中を下から上にさする
- 「エヘン」と咳をしてもらう
- 背中を軽くトントンとたたく(強くたたかないように注意します)
- あわててお茶やお水を飲ませない(誤嚥が悪化することがあります)
呼吸困難の様子が見られたら、迷わず救急車を呼びます。
4.食後 3つのポイント
食事が終わったら、以下の3つに気をつけます。- 口腔ケア
- すぐに横にならない
- 食事内容を記録する
食後のポイント① 口腔ケア
食後は口の中に何も残っていない状態にしましょう。
飲み込み切れなかった食べものがずっと口の中に残ると、口の中で雑菌が増え、虫歯や歯周病、肺炎の原因になります。
歯磨きや入れ歯洗浄をして、口の中を清潔にします。
ご本人が自分で歯磨きなどをできない場合は、介助する方のサポートが必要です。
ただし、口は敏感な場所ですし、たとえ家族であっても、人から口を触られることはあまり心地のよいことではありません。いきなり口に触れるのではなく、口から離れた場所から触り、緊張感を取り除いてから口腔ケアをするようにします。
食後のポイント② すぐに横にならない
食後すぐに横になると、食べたものが胃から逆流してしまうことがあります。
食後30分から1時間は、横にならずに座った状態で安静にします。
食後のポイント③ 食事内容を記録する
何をどのくらい食べたか、何を食べたらむせたか、などメモを取っておくと次回以降の食事の準備に役立ちます。
普段とは別の方に食事介助をお願いする場合も、メモの内容が役立ちます。
5.症例ごとの食事介助のコツ
上記でご紹介した食事介助のポイントに加え、持病などによって注意したい点があります。
ここからは、介助を受けている方の症例別のコツをいくつかご紹介します。
症例ごとの食事介助のコツ① 認知症
■開口してくれない:食べものだと認識してもらう
食事を口元に運んでも、口を開かなかったり、手を振り払ってしまうことがあります。この場合、口元に運ばれたものを食べものと認識していない可能性があります。
口を開いてくれない場合、食べものをくちびるに軽くあてて少しなめてもらい、食べものだと認識してもらいます。
手を振り払ってしまう場合は、本人の手に介助する方の手を軽く添えてスプーンを口に運びます。 左手に茶碗、右手にお箸、など、本人が慣れた持ち方で食具を持ってもらうことで、食事だと認識することもあります。
また、介助する方が正面に座り、食べる動作をまねしてもらうことで食事がスムーズに進むこともあります。
■口に詰め込んでしまう:小皿に少しずつ分ける
認知症の種類によっては、自分の行動を抑えづらい状態になり、食べものを次々に口に詰め込んだり丸飲みしてしまう方もいます。
この場合、大食いや丸飲みによる誤嚥や窒息のリスクがあります。
食べものを小皿に分けて少しずつ出し、しっかり飲み込んでもらってから次の一口を出すようにします。
本人にはお箸やスプーンを持たせず、介助する方がスピードや量を調節するほうがいい場合もあります。
■食べ残す:食べものがはっきりわかる色の食器に盛る
それほど多くない量なのに料理を食べ残してしまう場合、食器の色をチェックしましょう。
料理の色と食器の色が似ていると、食べものが盛られていると認識できないことがあります。
白いご飯は濃い色の茶碗によそうなど配慮してみましょう。
■虫が入っていると言う:否定せず、取り除く
認知症の種類によって、ふりかけが小さな虫に見えて食べられない、と言うエピソードはよく報告されています。また、茶碗の影やテーブルのしみなども、虫などに見えてしまうことがあります。
家族としては「虫ではないですよ」と否定したくなりますが、本人には確かにそう見えています。否定しすぎると、本人が混乱したり興奮が高まる危険があります。
ふりかけ以外の献立に変更する、照明の位置を変える、汚れを取り除く、といった対応で安心してもらうことが大切です。
症例ごとの食事介助のコツ② 片麻痺
病気の後遺症などで体の片側だけに麻痺があることを「片麻痺(かたまひ)」と言います。
片麻痺の方の食事介助をする場合、健側(麻痺がない側)に座ります。
麻痺側の腕はテーブルに乗せて上半身を安定させます。 麻痺側の足の裏が床に付きづらい場合は、台などを置いて足を乗せてもらうことで、より姿勢が安定します。
片麻痺の方がベッドで食事をとる場合は、健側を下にして横向きに寝た状態で介助します。
症例ごとの食事介助のコツ③ 傾眠傾向
傾眠傾向とは、高齢者によく見られる軽い意識障害です。原因は、認知症などによる不眠、脱水や薬の副作用などです。
声をかけたり肩をたたいたりすると意識がもどりますが、病気の兆候である場合もあります。
傾眠は通常の居眠りとは異なります。
噛まずに飲み込んだり、口の中に食べものを残したまま眠ってしまうこともあります。 一口ごとに肩を軽くたたいたり声をかけたりし、目が覚めた状態で口の中に食べものを運ぶようにします。
また、一口量を少なくして、食べている途中に眠ってしまったときの誤嚥の危険を減らすことも大切です。
症例ごとの食事介助のコツ④ 視覚障害
視覚障害のある方、特に全盲の方には、料理の位置を説明する際に「クロックポジション」が活用できます。
クロックポジションは、ものが置いてある位置などを「〇時の方向」と時計の短針の位置にたとえて説明する方法です。
「ご販は7時の方向(左手前)です。かつおのふりかけが乗っていますよ」 「お味噌汁が5時の方向(右手前)です。具は、豆腐と油揚げですよ。」
のように説明します。
もちろん、「右手前」「左手前」のほうがわかりやすい場合は、無理にクロックポジションを使う必要はありません。
6.正しい食事介助で楽しい食事時間を
ここまでご紹介した食事介助の基本を身につけることで、ひとりで食事をとることが難しい方にも安心して食事をとってもらいやすくなります。
誤嚥を防ぎ、介助される方、介助する方どちらにとっても楽しい食事の時間を過ごすことが何よりも大切です。
わからないこと、迷ってしまうことがあれば、病院の看護師さんや専門スタッフ(言語聴覚士さん)、介護福祉士さんなど、頼れる方を探して相談してみることもおすすめです。
高齢や病気で体が弱くなっても、口から食べる楽しみは人生の楽しみにつながります。
「生きることは食べること」
猫舌堂は、皆さんの食べる楽しみを応援しています。
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