2022年11月に猫舌堂が刊行した、「食べること」に悩んだ当事者同士の対談集『一食十色(いっしょくといろ)』。
がん診療連携拠点病院などに置いていただき、相談に来られる方にお手に取っていただいています。
本記事では、病院以外の施設として『一食十色』を置かせていただいている、東京都江東区の「マギーズ東京」をご紹介します。
※本記事は、2023年1月にマギーズ東京を訪問させていただいたときの情報に基づいています。
1.「がんに影響を受けるすべての人が、自分の力を取り戻せるように」
▲ゆりかもめ「市場前」駅から徒歩5分。海を臨むビル群の合間に建つ「マギーズ東京」。
がんに影響を受けるすべての人が、自分の力を取り戻せるように。
マギーズ東京は、がんになった人とその家族や友人などが、とまどい孤独なとき、気軽に訪れて、がんに詳しい友人のような看護師・心理士などに、安心して話せる場です。自然を感じられる小さな庭やキッチンがあり、病院でも自宅でもない、第二の我が家のような空間で、海風を感じながら、自由にお茶を飲み、ほっとくつろいでみませんか。さまざまなグループプログラムも開催しています。大勢の方のチャリティ(寄付や協力)で運営し、無料でご利用いただけます。(ホームページより)
『一食十色』は、がん治療や後遺症などによる食べづらさ(食欲不振・口元のマヒ・味覚障害など)を経験した当事者同士の対談集です。「わかるわかる~!」「私はこうしてみたよ」といった経験者の生の声から、今つらい思いをしている方がご自身にあった「食べ方」のヒントを見つけていただければ、との思いで制作した冊子です。
訪問時にお迎えくださったのは看護師の岩城さん。
「マギーズ東京」の成り立ちや活動について、終始にこやかにお話しくださいました。
2.「患者」ではなく一人の人間としていられる場所
「マギーズセンター(以下、マギーズ)」は、1996年に英国で誕生しました。創設者の造園家、マギー・K・ジェンクスが感じた『がん治療中でも、患者ではなく一人の人間でいられる場所と、友人のような道案内がほしい』という願いがきっかけです。今では世界27か所に広がり、日本には2016年にこの「マギーズ東京」が誕生しました。
―マギーズは、英国では病院の敷地内に、病院の建物とは別に作られています。また、世界のマギーズ共通の建築要件が細かく決められています。たとえば、自然光が差し込むこと、水面が見えること、もしくは暖炉か水槽があることなどです。「患者」ではなく「一人の人間」として居られる場であるように配慮されています(岩城さん)。
▲水辺が見える立地、太陽光が差し込む建築デザインは、マギーズの建築要件に沿っています。
3.立地もおしゃれなインテリアも「癒し」の一環
―ゆったりと作られたインテリアも「癒し」のひとつです。建築担当がトータルコーディネートしているので、私たち看護師・心理士は調度品の場所を勝手に変えられないんですよ(笑)。自然光の入る室内やクッションカバーの繊細な刺繍、柔らかい色づかいなどを感じながら、自宅ではない場所でのんびりした時間も過ごせるように配慮しています(岩城さん)。
▲マギーズ東京のおしゃれなインテリア。英国のデザイナー、ウィリアム・モリスやメイ・モリスによる繊細で美しいカバーがかけられたクッションが並ぶエリアもあります。
―海外には、洗練されたインテリアや、人目を引くような外観のマギーズセンターもあります。これは、がんに影響を受け、自分の存在価値を下げてしまう方たちに、「あなたは社会にとって大切な存在なんですよ。あなたはここを使う権利があるんですよ」と、マギーズを訪れた瞬間、感じ取ってもらうための工夫です(岩城さん)。
▲Maggie's Barts – London (City & East) の内観(イギリス・ロンドン市内)
▲Maggie’s Nottingham の外観(イギリス・ノッティンガム)
―「環境」もケアのひとつというのがマギーズのコンセプトです。コロナ禍は、オンラインでの対応もおこなっていましたが、現在は改めて本来のコンセプトに立ち戻っているところです。
マギーズでの過ごし方は皆さんさまざまです。スタッフに相談される方、本を読まれる方、ゆったり寝そべることのできる大きなソファでお昼寝をするためにお越しになる方も。自宅でも病院でもない場所で、自分のためだけに時間を過ごす場としてマギーズを使っていただければうれしいです(岩城さん)。
▲クッションに埋もれて寝そべることができる大きなソファ。ここにお昼寝をしに訪れる方も。
―マギーズは気が向いたときに予約なしで来られる場所です(※)。お名前を名乗っていただく必要もありません。匿名のままお悩みを相談できるから、と、遠方からお越しになる方もいらっしゃいます。
また、室内は完全に間仕切りにせず、滞在されている方の気配が感じられるようなしつらえにしてあります。利用される方同士のちょっとした交流も生まれやすい環境です。もちろん、おひとりで過ごされたい方もいらっしゃるので、私たちスタッフが場の空気を読みながらフォローに入ることもあります(岩城さん)。
※感染症対策のため、現在(2023年10月)は来訪前の連絡が必要です。最新情報はマギーズ東京のウェブサイトをご確認ください。
4.お手洗いは、ひとりで泣いてもいい場所
「マギーズのお手洗いはとても広いんですよ、見ていかれませんか?」と岩城さん。
▲マギーズの広いお手洗い。オストメイト対応です。
写真ではちょっと伝わりにくいかもしれませんが、確かに、広い!
―ここは、お手洗いであると同時に、ひとりで泣いていい場所でもあるんです。涙したあとは、お化粧を直したり、気持ちを落ち着けたり、少しでも快適に過ごせるように広く作ってあるんですよ(岩城さん)。
広いお手洗い以外にも、部屋をサッと仕切れる太鼓張りの障子があったりと、訪れる方の気持ちに合わせて調節ができる、とても細やかな配慮があり、拝見するだけで心がじんわりと温かくなるようでした。
5.「知ること」が心の支えになることも
マギーズでは、がんに関する書籍も数多く読むことができます。
―不安なことは私たち看護師に相談していただくこともできますし、詳しく書いてある書籍を読むこともできます。インターネットで手に入る膨大な情報に翻弄されて悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。小さなお悩みでも、ぜひ、私たちにお声がけいただければと思います(岩城さん)。
▲マギーズの図書コーナー。書籍は館内で自由に読むことができます。
『一食十色』もマギーズの図書コーナーに仲間入り。
がんの影響で「食べること」にお悩みのある方へのヒントのひとつとしてお手に取っていただけることを願っています。
▲マギーズのロゴマークを持って、パチリ(左上より時計回りに、オズさん、マーシーさん、マギーズ東京センター長秋山さん、猫舌堂スタッフ 2023年1月)。