猫舌堂Webマガジン「一食十色」 color.3

猫舌堂Webマガジン「一食十色」 color.3

2022 ⁄ 05 ⁄ 28

 一食十色(いっしょくといろ)」は、「自分の『一食一色』を持ち寄り、『一食十色』に色(=選択肢)を拡げていく」という意味合いを込めて、猫舌堂が作ったことばです。

 病気や手術などで食事に悩みを抱えたとき、
「みんながどうやって食べているのかを知りたかった」
「ほしかったのは、『正しい情報』よりも『選択肢』」
「選択肢があれば、あんなに心細い思いをせずに、心にゆとりを持って自分に合った食べかたを探せたはず」

 そういった猫舌堂代表の柴田自身の経験から、この企画は始まりました。

 
3回目を迎える「一食十色」color.3 のテーマは、

胃を切除しちゃった後の生活珍道中


 
今回のゲストは、胃を全摘したお2人です。胃がなくなったことで、食べることにさまざまなお悩みがあったようです。
 食にまつわるイロイロな工夫について、お話していただきました。

 

 

color.3 ゲスト

 

マーシー

 

 

こーや

  

  

■グラフの点数について

1点 障害認定を受けている
2点 障害認定は受けていないが、生活に支障がある(生活に強いストレスを感じている)
3点 障害認定は受けていないが、生活に支障がある(補助具や工夫などによって、生活のストレスはコントロールできている)
4点 障害認定は受けておらず、生活にも支障はない

  

  

1.胃の全摘! 不安だらけだった手術前

 

 スキルス胃がんは特殊な胃がんで、胃の壁が硬くなっていくのが特徴です。告知された当時、私の胃はすでにガチガチに硬まっていた上、胃と食道のつなぎ目も硬くなっていました。食道は食べものが通らないくらい狭くなり、食べても飲み込めず毎食吐いていました。

 スキルス胃がんは手術ができないぐらい進行して見つかることが多いのですが、私の場合は手術前におこなった抗がん剤治療がよく効いて胃がやわらかくなったこともあり、手術ができるようになりました。

 また、やわらかくなったおかげで、割と普通に食べられるようになっていたので「胃を全摘する前に」と思い、「32年間ありがとう! 胃の感謝祭」を手術の2日前に一人開催しました(笑)。そのときはチキン南蛮定食と、その後さらに豚骨ラーメンも食べました。

(左)チキン南蛮定食 (右)豚骨ラーメン 

 

 すごい量ですね。でも、こーやさんの気持ち、何となくわかります。私も手術前に食べ過ぎた経験があります。たくさん食べたいというより、この先自由に食べられなくなるかもしれないという不安から「今のうちにたくさん食べたい」という気持ちです。最初は不安ですよね。 

 

 

  不安を通り越して絶望。何も考えられませんでした。

 

 

 私は、母親が持っていたお食事券で「2人で盛大に食べよう!」とすき焼き屋さんに行きました。母親とサシで食べるのは久しぶりで、いい機会でした。

 あまりにもおいしかったので、よくばってもう1人前追加したんです。これが、人生で一番と言っていいほど食べ過ぎて苦しくなり後悔しました(笑)。


 

2.胃の全摘ならではの症状って?

 

① ダンピングや血糖値の急変にヒヤヒヤ!

 

 胃の全摘手術をした後、最初は全然食べられない。病院食も白湯(さゆ)からのスタートでした。
 私が受けた手術は、食道と小腸をつなげるルーワイ法というものでした。胃がなくなった分、小腸が胃の代わりもしないといけない。小腸からすると自分の役割ではないわけですよね。

 普通は食べものが胃で消化された状態で送られてくるのに、いきなりダイレクトに自分のところ(小腸)にくる。小腸としてはびっくり仰天ですよ。「俺の仕事じゃないから受け入れられないよ」という感じです。

 

 

 そうですよね。

  

 

 3食の食事が苦痛でした。食べないといけないわけじゃないけれど、エネルギーが出ないですし体重も増えません。食べるのに体力も精神力も使うし、好きなものを食べたいだけ食べられないという状態で、楽しみがなかったですね。手術してから1年半くらい続いたかなと思います。

 

 

 食べた後、何か症状は出ましたか?

  

 

 私の場合、術後2年ぐらいは軽めのダンピング(※1)がありました。具体的な症状としては、血糖値が上がって、冷や汗が出て気持ち悪くなり、めまいがしていました。とにかくお米を食べられなくなり、お米を食べると気持ちが悪くなっていたんです。

 

 

 そのころは、どのように対処していましたか?

  

 

 主にパンを食べたりしていました。最初のころは、食後1時間ぐらいソファで寝るなど、休憩を取らないとしんどかったです。今はダンピングがないですが、手術から4年経ってもいまだにご飯を食べた後は気持ちが悪かったり、体がだるかったりします。休まないと元気が出ないし、頭もしっかり働かず、動きづらいですね。

 

  私は食後、血糖値の上がり過ぎで頻脈(どきどきした状態)が起こります。食後1時間の血糖値が、私の場合は、300㎎/dlまで上がります。(食後2時間の正常値は 140㎎/dl)

 頻脈が起きている間は心臓が軽いジョギングをしているような状態なので、すぐに疲れてしまいます。しかしその後、血糖値は急激に下がって低血糖になります。

 ややこしい体になりました。特にまんじゅうなどの甘いものを食べるときなどは「(症状が)来るかな、来ないかな」と内心ヒヤヒヤしています。  

 

 

 自分の体なのにコントロールが難しいですよね。

 

  

 

 今でも「なぜか食べられない日」というのがありますね。先日、自宅でほうとうを食べたのですが、昼に食べ始め、夜の11時までかかりました。

  

 

 術後に起こった変化として、他には何かありますか。

 

 

 私の場合、これまで体に蓄積されていたビタミンB12が4年経たないうちになくなってしまいました。(※2)そのため、味覚障害と末梢神経障害(手足のしびれや痛み)が出たんです。今は注射で補給しています。  

  

 

 私は錠剤で毎日朝晩飲んでいます。いろいろな補給の仕方があるんですね。 

 

 

(※1)胃の切除後の再建など、食べものの流れを変えることにより、これまで胃の中を通っていた食べものが直接腸に流れ込むために、めまい、動悸(どうき)、発汗、頭痛、手指の震えなどのさまざまな不快な症状が起こることがあります。これをダンピング症候群といいます。
出典:国立がん研究センター「がん情報サービス」ダンピング症候群

(※2)胃を全部取った方ではビタミンB12の吸収障害により、手術後6年くらいしてから貧血が起こります。胃が少しでも残っている方には、ほとんど起こりません。これは食事療法では治りません。ビタミンB12の注射による補給が必要となりますので、医師の指示を受けてください。
出典:国立がん研究センター「がん情報サービス」手術後の食事(胃、大腸)

 

 

② 空気の逃げ道がない!

 

 

 私は食べものと一緒に飲み込んだ空気が腸に詰まって、食事に苦労しています。こーやさんはそういう状態ってありますか?   

 

 

 空気はないですね。

 

 

  通常、人間は食事の際、食べものと同量~3倍の空気を飲み込んでいるそうです。胃があれば、げっぷ等で食道をすっと抜けてくるけれど、胃がないから小腸まで直接入ることになります。入った空気は抜ける場所がなくなる。直径3センチの食道の中で押し込められた空気は出ようとする。それなのに、さらに食べるから、押しつぶされてしまう。食べものと空気の層がたまりこんでしまい、大腸が常にパンパンの状態です。それがずっと続くんです。

 おならを30回出したとしてもお腹がまだパンパンで、腸が張ると鈍痛がずっと続くんですよね。本当に痛い! 胃の構造としては赤ちゃんの未熟な胃と一緒。赤ちゃんが便秘になったときに痛がるのと同じです。
 これが今一番困っていることですね。あ、でも私のおならは空気だから臭くはないです。電車でおならをしても大丈夫(笑)。

 

  
 私はそういう症状はありませんでした。人によっていろんな悩みがありますね。

 

 

③ お酒は飲んでも大丈夫?

 

  
 マーシーさんはお酒は飲まれますか?
 

  

 

 

 ときどきですね。元々好きというわけではありません。こーやさんはどうですか?

 

 私も元々そこまで飲まないけれど、術後は恐怖心があって飲めませんでした。この半年くらいで、グラス1杯飲めるようになった感じです。炭酸は大丈夫ですね。最初はびびっていましたが意外と大丈夫でした。
 

  

 私は炭酸はげっぷがしやすくなるので積極的に飲んでいますが、もし、げっぷが出なければさらに空気がたまってしまいます。加えて、食べものが流れていかずに食道に残ってしまうときは息ができないような感覚になります。こーやさんはそういった感覚はないですか?

 

  

 手術前はありましたが今はないですね。
 

  

 

 ちなみに胃の全摘後は、お酒にすごく酔うようになる人もいれば、酔わなくなる人もいるようです。私の場合は、胃を取る前と変わりませんでした。 

 

  

3.食べるための工夫イロイロ

 

① 食べることに集中できる環境づくり

  

 入院中、最初はまったく食べられず、もう一口がんばってみようと口に運ぶと吐くような状態でした。でも、食べられないと退院できない。私のいた病院では、患者はみんな食堂で食べることになっていました。

 あるとき、自分のベッドで、1人で食事をしてみたんです。人目を気にせずげっぷをしたり、食べられないものを口から出せるようになったことで、倍の量が食べられるようになりました。環境やプレッシャーなど、気分的な影響は大きいですね。

 

  よくわかります。病気になる前は「ながら」でどんな環境でもとりあえず口に運んで、適当に飲み込めば食べられていました。今は食べることに集中しないといけません。ストレスがあって、他に気が散ってしまうとなかなか食べられなかったり、食べても気持ちが悪くなったり、だるくなったりしますね。

 

② 食べられるようになったきっかけと現在

 

 私の場合は、1年ちょっと経って急に食べられるようになりました。徐々にではなく、急に。1年ちょっとは、お米を食べると気持ちが悪くなって一定量以上は食べられず、食後も疲れてしまう。そんな状態が続いていたのですが、あるとき突然、「なんか米を食べられるぞ!」「食べた後のダメージが少なくなったぞ!」と実感がありました。そこから少しずつ切り替わっていきました。それまではずっと低空飛行でしたね。 

  

 

  低空飛行の間はどんな工夫をしていましたか?

 

 

 ゼリーやバナナ、スープといった半液体状のもの、やわらかいものを食べていました。あとは、今も飲んでいる野菜ジュース。野菜をミキサーですりつぶして飲んでいます。妻がニンジン、ホウレンソウやリンゴなど、たくさんの野菜や果物で作ってくれます。

 

 栄養がたくさん取れそうでいいですね。私の場合は、ヨーグルト、チーズ、納豆など、乳酸菌ばっかりかな。

 実は、父も胃がんと大腸がんだったので、その食事を参考にしています。そうは言っても納豆ばかりだと飽きてしまうので、卵を入れたり、マヨネーズを入れたり、ケチャップを入れたりしています。おいしいですよ。お腹の通りもいいようです。

 

  

 納豆は噛むとペースト状になるし、いいですね。

 

 

③ 胃の役割をお口の中で

 

 

 今でもご飯一口につき、50回噛みます。口の中で胃と同じようにペースト状までできたら理想ですね。外食で焦ったりして40回になると、てきめんに体に異常が出ます。

 

 
 胃がないから口の中を胃の代わりにするという感じですよね。これまで胃がやわらかくしてくれていた分だけ、口でやわらかくして飲み込みます。

 

  ところが、寒い時期にそのような食べ方をしていると、茶碗によそったご飯がどんどん冷たく硬くなっていきます。そのため、1回の食事で5回くらい、少しずつよそっては食べ、よそっては食べを繰り返していました。

 ちなみにそうめんはやわらかくて食べやすそうに見えますが、細過ぎて口の中でつぶせないから苦手です。太い方がつぶしやすいですね。

 

④ ラーメンを食べる! 目標を達成

  

 

  こーやさんは麺類の思い出はありますか?

 

 

 術後に病室のベッドでラーメンなどを大食いする動画をYouTubeで見ていました。何も食べられない状態なのに。「いつか自分も食べるようになってやるんだ」と思っていました。2年後に食べられたときは、めちゃくちゃうれしかったです。完食はできなかったけど、一生食べられないと思っていたので「ラーメン食べてる俺! すごい!」と感動しました。



手術の数カ月後に食べたラーメン
「ラーメンを食べられていることに感動した」


  

 

 食べている様子を自撮りはしなかった? 

 

 

  

 しなかったですね。食べることに夢中になっていました(笑)。

 

  

 のどごしって感じられますか? 私は麺をツルツルッと口に入れられなくて。うどんやそばは大丈夫ですが、中華麺やパスタ系は食べられません。 

 

 

  

 しっかり噛んで食べるのでツルツルとはいきません。スープも冷めてしまいます。 

 

 

⑤ 「完食できた!」を実感したい

 

 

 マーシーさんは、「これを食べられるようになった!」って感動したものはありましたか?

 

  

 あったはずだけど、何だったかな? それよりも完食できることの方がうれしかったです。家族はたくさん食べてほしいからたくさん出してくれるんだけど、残すならきれいに残したい。「ばっかり食べ」になっちゃうけど、優先順位をつけて1つのお皿を食べ切ってから次に手をつける食べ方をしています。食べられないものには、まったく手をつけません。これは私の美意識ですね。

 

⑥ 外食は大変! ポイントは「大皿」

 

 最近は家族と一緒に外食に行けるようになりました。でも、今でも会社の人と飲み会があると気を遣います。食べるのがとても遅いし、硬いものは噛み切れず飲み込めないので出してしまうんです。家族の前だと口から出せますが、同僚だとその姿を見せたくない。家族以外の人と外食に行くことは気持ち的にはばかられるところがありますね

  

 外食は難しいですね。出かけるときにルートを調べるのと同じように、「どこでどうやって食べるか」を考えておく必要があります
 飲み会だと、大皿料理がいいんですよね。自分の都合のいいものだけを選んで食べられる。2~3時間かけてゆっくり食べるから、体重が増えて帰ってくることもあります(笑)。

大皿料理(イメージ)

  

  

4.臓器さん、ありがとう

 

 私は、胃だけでなく脾臓(ひぞう)も胆のうも切除したのですが、その後「臓器に対する感謝の念」を強く感じるようになりました。

 心臓みたいに鼓動を感じられる臓器とは違って、胃や脾臓、胆のうは普段意識したことはなかったのですが、なくなるとなれば、急に愛おしくなりました。見えないし触れないけれど、それぞれの役割を果たしてきてくれたのだなぁ、って。「これまでありがとう」という気持ちと、あと、やっぱり寂しい気持ちになりました。

 また、親に対して申し訳ない気持ちにもなりました。誰が悪いわけじゃないけど、育ててくれたのに、体の一部を欠如してしまい、悲しませてしまったな、と。

 

 

 私は、「酷使はしてきたのかな」と思いますね。そのありがたさは感じます。本当にがんばってくれていたんだなと思います。

 

 

  暴飲暴食ができるってすばらしいと思います。胃がなくなるとできませんから(笑)。

 

  

 

 胃がなくても胃もたれするんですよ(笑)。他の臓器が、がんばってくれている証拠。体はよくできています。

 

 

 そう思います。だんだん体がその状況に適応していくんだなと実感しました。
 人間の体は神秘的ですね。絶妙なバランスの中で体の機能は相互作用しながらそれぞれの役割を果たしています。大きなものが欠如して、一度はおかしくなるのですが、だんだんシステムが回復してくるのはすごいと思います。
  

 

 あいつがダメなら俺たちがなんとかしようという感じですよね。 

 

 

 ホント、そう思います。 

 

 

5.後遺症で悩んでいる方へのメッセージ

 

 

 食べることに悩みがあると、どうしても食べやすいものに偏る傾向があります。そうすると同じものばかり選ぶようになって、飽きてしまいます。生きていく上で、栄養を取るだけでなく、いかにして食事を楽しめるか。飲み会など、食が進む、楽しい場を作るなど工夫しながら食事を楽しんでほしいな。

 

 好きなものを好きなだけ食べられることは普通じゃない。それが当たり前のときは、「感謝した方がいい」と言われてもあまり理解できないかもしれません。でも、それが普通じゃないことに気が付いてほしいです。生きるためなら、ただ体に栄養さえ入れたらいいかもしれませんが、そういうものではないですよね。

 人間なので、その場の雰囲気や一緒に時間を過ごす人、会話、いろんなことが食事の楽しみにつながっていると思います。「食べられること」にありがたいという気持ちをたまにでも思い出してください。

 

 食べることが難しい状況を経験したお2人。
 だからこそ、「食べること」の中の「喜び」を大切にされているのだと感じました。
 

 

※記事の内容はその方個人の感想・体験です。すべての人に当てはまるものではありません。

    2件のコメント

    小長谷さま、「一食十色」color.3を読んでくださり、コメントを届けていただきましてありがとうございます。小長谷さまもマーシーさん、こーやさんと同じようなご経験をされていらっしゃるのですね。猫舌堂のイイサジーもご愛用いただきありがとうございます。
    「一食十色」を通して、これからもみなさまといろんな「色」を発見していけたらと思っております。

    猫舌堂

    私の場合は、食道癌で食道と胃を全摘しております。マーシーさんと同じく2015年に手術、2019年に再発、転移して治療中ですが、マーシーさん、こーやさんと同じ様な経験をしております。外食は下痢の心配、食事は、数時間かかり、朝食は、経口経管栄養法と言って口からチューブを入れて、メイバランス3本にてエネルギーと蛋白を確保している生活です。自由時間を作り出すのに苦労してます。食事は、家族と同じものですが、特別に烏骨鶏のたまごと納豆は欠かさぬ様にしてます。猫舌堂のスプーン、フオーク、お箸は愛用してます。
    自由時間は、積極性に外出してます。(綺麗なトイレのあるところを意識して___(笑)(笑)

    小長谷育夫

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