猫舌堂Webマガジン「一食十色」 color.1

猫舌堂Webマガジン「一食十色」 color.1

2022 ⁄ 03 ⁄ 01

 一食十色(いっしょくといろ)」は、「自分の『一食一色』を持ち寄り、『一食十色』に色(=選択肢)を拡げていく」という意味合いを込めて、猫舌堂が作ったことばです。

 病気や手術などで食事に悩みを抱えたとき、
「みんながどうやって食べているのかを知りたかった」
「ほしかったのは、『正しい情報』よりも『選択肢』」
「選択肢があれば、あんなに心細い思いをせずに、心にゆとりを持って自分に合った食べかたを探せたはず」

 そういった猫舌堂代表の柴田自身の経験から、この企画は始まりました。

 
記念すべき「一食十色」color.1のテーマは、

医療従事者だカラーこそ、こんなことやっちゃったよ!

 今回のゲストは、医療従事者のお2人。
 「医療従事者だからこそ、ついやってしまった!」
 「患者の立場になってみて、初めて気付いた!」など、
 イロイロな経験・思いをお話しいただきました。

 

 

color.1 ゲスト

 

りょうたん

 

 

    

あっつん

 

 

 

  

■グラフの点数について

1点 障害認定を受けている
2点 障害認定は受けていないが、生活に支障がある(生活に強いストレスを感じている)
3点 障害認定は受けていないが、生活に支障がある(補助具や工夫などによって、生活のストレスはコントロールできている)
4点 障害認定は受けておらず、生活にも支障はない

  

  

1.いいと思っていたことが、実は……!?

 

 「やっちゃったよ」な経験、たくさんありますよ。
医療従事者だから普段から傷を見慣れているんですよね。
 これくらいなら平気かなと自分で判断しがち。

 術後1~2日しか経っていなくて、本当なら「傷、大丈夫なの?」という状態なのに、動きたいし、食べたいものを食べたいし。
 看護師さんたちも忙しそうなので、勝手に院内のコンビニに行って病室に戻ったんです。
 そしたら、主治医に見つかって「元気ですね」と言われてしまいました(笑)!

 

 私の場合、患者さんに勧めていた食べ物で、いざ自分がその立場になると、「こんなもの食べられたもんじゃない」というのがほとんどでした。
 
 例えば、「お味噌汁、うどん、おそばだと、口当たりもよく食べやすいですよ」とお伝えしていたのですが、出汁(だし)はおいしくないし、麺も吸えないし、汁もあちこちに飛んで、人前で食べられるものではありませんでした。
 
 「全然わかってなかったな」と反省しました。自分で食べてみて「あっ」と気付いたんですよね。

 

 
 わかります! 私も反省の連続です。
「食べられるものを食べて」という言葉が、どれだけ責任感のない言葉だったかと。


 

 親切心のつもりが、実は残酷だった。
「じゃあ、何を食べたらいいの?」と路頭に迷う言葉ですよね。
 

 

 

 うんうん。退院時に「やわらかいものから」と、看護師さんにアドバイスをいただきましたが、いざ探してみると、なかなか見つからなくて。

 特に、おかず。「タンパク質は何からとろう??」と悩みました。

 

 私はおかゆや、やわらかいものを出されると、病気の人になった気持ちがしていたので、早いうちに常食にしてもらいました。

 でも、食べると痛みがあったので、よく噛まずに飲み込んでいると、胃が悪くなるし消化にも影響する。
 悪循環なのはわかっているのですが、強がっていました。

 

 私の場合は、病院のご飯は、最初、五分粥でした。三分にすると、口が麻痺しているから水が出てくる。さらさらすぎてもダメなんですよね。
 だけど、おかずはある程度のかたさがあるものだったので、痛くて食べられないんです。
 
 看護師さんに、「ご飯は五分、おかずは三分に変えてください」と言ったら、笑われちゃいました。あまりない注文だったみたいで(笑)。

 でも、三分のおかずは、ムース状だったんです。
 魚? 肉? 野菜? 何を食べているのかわからず、おいしいと感じられなくて。
 せっかく変更をしていただいたのに、おかずは残しました。

 

 

2.みんなのアドバイスを自分流にアレンジ!

 

 生の情報がすごく役に立ちました。
 放射線治療を受けた先輩たちから、味覚障害が出始めた時期や食べやすいものを教えてもらいました。

 口内炎や味覚障害のことは知っていたけど、いつ頃その症状が出るか、どのように生活していたのか、といったことはわからなかったので、とてもありがたかったです。

 「スイカがおいしいよ」と聞いて、真似して食べてみたらおいしかったー! あとは、「つぼ漬け」。でも、これは私には合わなくて。
 きゅうりの浅漬けにしたら、「カリッ」「サクッ」という食感を楽しむことができました。
 お茶がまずく感じていたときは、「レモン水がよかったよ」のアドバイスが役立ちました。

 同じような治療を経験して、乗り越えてきた人の声だから聞けたのだと思います。

 

 私が入院したときは、コロナ禍で患者同士の交流もなく、そうした情報がないことはとても不安でした。
 直接話が聞けたらもう少し工夫できたことがあるかもと思います。

 食べ物に関する情報は、院内の歯科の先生や歯科衛生士さんからもいただきました。
 ただ、ドライマウスの症状が不快で相談したときに、「氷がいいかも」とアドバイスをもらいましたが、私には味気がなくて。

 シャーベットを食べてみたらおいしかった。口の中が燃えるように痛くて熱いときでもクールダウンさせてくれるし、甘いから満たされます。

 

3.患者になって、気が付いた!

 

①「伝えないと、伝わらない!」

 

 乾燥する季節は、口の中が乾きやすいんです。
 乾燥すると、舌が赤くなってひりひり。

 歯科衛生士の目では、苦痛を感じるほどには見えないのですが、患者の立場になってみたら、とても痛かった。
 これも自分が経験して初めてわかりました。 



  命に直接かかわらないことは「たいしたことではない」
と思っていましたが、実はそうではないんですよね。


 「どうやったらラクに生活できるか。楽しく生活できるか」を考えたときに、「食」って大事ですよね。
 毎日食べなきゃ元気になれないし、食べることを義務にするとつまらないし苦しくなります。

 医療従事者からみると、「ゼリーでもプリンでも、口から食べられているからいいじゃないの?」と思われるかもしれないけど、そうじゃない。
「食べたいものが食べられないことがこんなに苦しいものなのか」と、痛いほどわかりました。
 病院では、患者さんの生活の一瞬しか見えていないけど、暮らしはずっと続くわけじゃないですか。もっとそこに寄り添えたらよかったのになと思います。

 


 そうしたことって、患者である自分たちが伝えないと伝わらない。
 自分にできるのは、体験を話すことなのかなと思います。

 

  
 医療従事者に悪気はないけど、「それはちょっと」という対応は、いろんな場面で感じます。
 だから、患者の意見を発信するって大事だなと思います。
   

② 今ならわかる「こんなアドバイスがほしかった!


 耳下腺がんの手術は顔面神経麻痺になる人が多く、私も先生から「術後は上手に水が飲めないかもしれない」と聞いて覚悟をしていました。
 でも、どうしても口から自分の力で飲みたくて。ストローの細さ・太さを変えてみたり、タンブラーの薄さを変えてみたり、いろんなことを試してみました。
 
 でも意外にストローって大変。太ければ吸えないし、細すぎるとごくごく飲めない。
 それに、口の麻痺している側を押さえて飲まないといけないんですよね。結局、直接ペットボトルで飲むのが一番飲みやすかったんです。
 

 

 私も、麻痺している方を手で押さえながらお茶を飲んでいます。
それだと片手がふさがってしまうので、水筒は、蓋が落ちない(片手で扱える)タイプに変えました。
 いろんな失敗を繰り返して、こういった形の水筒がいいんだと気付くことができました。
 


  
 人によって飲みやすさは違うと思うので、患者さんにはたくさん方法を提示してあげられるといいですね。
 

 

 

 選択肢があるかないかで全然違いますよね。
 自分のやり方を選択できたら、その人が、その人らしい方法を見つけることができると思います。
 
 


 同じように悩む患者さんは、たくさんいると思います。
 選択肢は、私が医療従事者だから持っている知識。患者さんから聞いたアイデアも含め、次の人に渡すことも大事だなと思っています。
 

 

4.まだまだある! ちょっとした工夫で増やす「おいしいね」

 

① 工夫1. 目に満足感!


 食欲がないときに、「ちょっとしか食べていないけれど、たくさん食べたように感じられる工夫」をしました。
 子ども用の食器を使って食べられる量だけ入れると、実際は少量でも「完食できた」という気持ちになれます。
 見た目の彩も大きいと思います。
 
 

 その気持ち、すごくよくわかります!
 私はワンプレートにちょっとずつ、ビュッフェみたいに盛り付けて完食できるようにしていました。
 あと、自分を病気の人と思わせたくないから、好きなお皿を買ってみてカフェっぽくなるようにしたり。


 
 
 お皿や食器って大事ですよね。あと盛り付けも!
 


 

 私たちは五感を使って食べているんだなぁって思いますよね。
 私は、形のないお料理に抵抗がありました。
 舌を使ってつぶせる冷凍食品のお肉やお魚があって、これを使うと目が満足するんです。

 スープや豆腐ばかりでは、自分がかわいそうになってしまいます。
 そこに形あるお肉やお魚があるだけで食べる意欲が湧いてくるんですよ。
 

② 工夫2. 家族も巻き込んで、みんなでハッピー!

 

 子どもや家族のご飯を作らないといけないのですが、自分だけ違うものはいやでした。
 私はお味噌汁が飲みづらかったので、当時は作るのをやめていました。
 その代わり、スープを作ることが多かったかな。
 具材をすりおろしたり、とろとろにしたり。家族みんなでそれを食べていました。

 

 うちも可能な限り家族で同じものを食べていました。
 お鍋でじっくり煮込んで。あとは、とろみをつけたり。
 かぶやひき肉は食べやすいのでよく使っていました。 

 



 自分が食べたいものに家族を巻き込む!
 味覚障害のときは中華料理が食べやすかったので、家族でよく行きましたね。
 焼肉屋さんに行ったときは、かたいお肉を避ける名目で、やわらかくて上質な霜降りのお肉を注文していました(笑)。
 

 

 
    みんなと同じものが食べたい。
 そして「おいしいね」を共有したいですよね。
 
 


 
 そうそう! 
 私が機嫌よく食べていると、周りも嬉しいみたい。

 

 

 
 味覚障害があると、味の繊細な調整ができないから、合わせ調味料を使うようになりましたよ。

 

  
  
 しんどいときは買い物に行くのもつらいですよね。

 

 

 

 
 つらいです。上手に手を抜くことが大事だと思います。
 
 

 

③ 工夫3.「いつか食べてやろう!」を目標に♪

 

 放射線治療のとき、パンフレットの「控えた方がいい食べ物」に、刺激物であるカレーが書かれていました。
 カレーには、野菜もお肉も入っていて栄養バランスも揃っているし、私にとってソウルフードなのですが、我慢していました。
 でも、味覚障害や食欲不振がひどくなり、「カレーを食べれば元気になれるかも」と思って。からさを最小限におさえ、食べでみたんです。味覚障害でもちゃんとカレーの味がして、元気が出ましたね。

 食べたくて仕方ないもの、ありますよね。
 私は、梅くらげが好きなんです。どうしても食べたくて、退院後口に入れたら、合併症の影響ですごく痛くて涙が出てきました。
 それ以来、食べることに慎重になっていたのですが、ようやく今は食べられるようになりました。
 

 


 梅くらげ、私も大好きですー!! 
 再トライしようと思ったきっかけはありますか。
 

 

 夫がとてもおいしそうに食べるから。
 どうしても食べたいという気持ちが勝ちました。
 自分だけが食べられないというのがいやだったんでしょうね。
  

 

 わかるわかる。「いつか食べてやろう!」と思うことが目標になりますよね。
 「仲間と一緒に食べる」など、一歩進むときのタイミングが必要だと思います。
  

 

5.「今」の積み重ね。今の自分、今の気持ちを大切に。

    
 
 無理して前に進もうと思わなくてもいい。
 そのときそのときに大事に思っていることの積み重ねでいいと思います。
 
 
 食べたい、飲みたいと思う気持ちは大事にしてほしいです。
 「一回食べて失敗しても、それは今できないだけであって、ずっとできないというわけではない!」と、何回もチャレンジしてみてもいいのかなと思います。
 できなかった自分を責める必要はないし、あきらめる必要もないと思います。口は、使えば使うほどよくなることを実感しています。
 よくなることを信じて、いろんなものを食べて飲んで、楽しい人生を歩んでいきたいです。

 

 普通に食べたり笑ったり話したりすることが、何よりのリハビリだと、形成外科の先生に教えてもらいました。
 特別なことをする必要はなく、そのときできることを、その人なりにやったらいいのかなと思います。
 失敗してもいいから食べたいものを食べる。
 


 
 食べ物をこぼしてしまっても、「こぼしちゃった!」と笑えばいいんです。悩まなくて全然いいんです。エプロンをいっぱい使えばいいし、コップが合わなければ、いろいろと買ったらいいんです。あきらめなければ、道は開けると思います。
 
 

 

 
 color.1で登場した2人の「色」(=選択肢)は、みなさんのなかでどんな色に変化していくのでしょうか。
 それは、あなた次第。正解も不正解もありません。自分の色をつくっていけばいい。
 いつかその色は、誰かにとっての新しい「色」になるかもしれないのだから。

 

※記事の内容はその方個人の感想・体験です。すべての人に当てはまるものではありません。