猫舌堂Webマガジン「一食十色」 color.4

猫舌堂Webマガジン「一食十色」 color.4

2022 ⁄ 06 ⁄ 25

 一食十色(いっしょくといろ)」は、「自分の『一食一色』を持ち寄り、『一食十色』に色(=選択肢)を拡げていく」という意味合いを込めて、猫舌堂が作ったことばです。

 病気や手術などで食事に悩みを抱えたとき、
「みんながどうやって食べているのかを知りたかった」
「ほしかったのは、『正しい情報』よりも『選択肢』」
「選択肢があれば、あんなに心細い思いをせずに、心にゆとりを持って自分に合った食べかたを探せたはず」

 そういった猫舌堂代表の柴田自身の経験から、この企画は始まりました。

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回目を迎える「一食十色」color.4 のテーマは、

腸を切除しちゃった後の食生活の工夫


 
今回のゲストは、腸の手術後、ストーマ(人工肛門)を造設されたお2人です。ストーマを造設した方にとって最大の心配ごとのひとつが「腸閉塞」。

 お2人には、腸閉塞を避けるための、食べるものや食べ方のイロイロな工夫に加え、避けては通れない「排泄」ケアの工夫についてもご紹介いただきました。

 

 

color.4 ゲスト

 

カロリーナ

 

 

れーれ

    

■グラフの点数について

1点 障害認定を受けている
2点 障害認定は受けていないが、生活に支障がある(生活に強いストレスを感じている)
3点 障害認定は受けていないが、生活に支障がある(補助具や工夫などによって、生活のストレスはコントロールできている)
4点 障害認定は受けておらず、生活にも支障はない

  

  

1.治療を乗り切る、私たちの「この一品」

 

退院したら食べたい、ごほうびの「鉄板焼きのお肉」! ~カロリーナさんの場合~

 

  これまでに度、手術を受けています。2018年の夏、会社の健康診断がきっかけで直腸がんが見つかって以降、直腸の手術、転移が見つかった肺の手術、直腸の再手術、そしてつい先月、2022年月に肺の再転移の手術を受けました。

 

 入院するたび、退院後に鉄板焼きのお肉を食べることをごほうびにして手術を乗り越えてきました。お肉を目の前で焼いてくれるのにお値段はリーズナブルでおいしい、お気に入りのお店があるんです。

 もちろん、腸の手術後はお肉はあまり食べられないのですが、肺の手術後はわりとすぐ、いろいろなものが食べられるんです。先月の肺の手術も鉄板焼きを楽しみにがんばって、退院後に念願のお肉を食べてきました!

 実はもともと、ワインエキスパートという資格を取るほどのワイン好きで、ワインとお料理を楽しむことが何よりもの幸せです。今回の鉄板焼きでは、さすがにワインは控えましたが(笑)。

 がんになってからはワインを飲む量も回数も減りはしましたが、自分なりのペースで楽しめているので、「生きていてよかった!」と思います。

 

ワインエキスパートバッジをつけたカロリーナさん(左)/ワインの豊富な知識の証、認定バッジの数々(右)※画像は一部加工してあります

 

「三種の神器」は甘酒・カットフルーツ・特製野菜スープ ~れーれさんの場合~

  
 私の場合、ストーマをつけてから1年間ぐらいは、「腸が詰まったらいやだな、手術になってしまったらいやだな」という不安が大きく、食べること自体が怖くなってしまって。食事にはかなり気を付けていました。 

 また、服用しているお薬の副作用で、体重が一気に5~6キロ落ちてしまう時期があって。何か口にしないとお薬も飲めないし、どうしよう……となったときに助けられたのが、甘酒、細かく切って冷蔵庫で冷やしたカットフルーツ、そして野菜スープです。

 スープのレシピは、うちの子どもが小さいころ、風邪で何も食べられないときに小児科の先生に教えてもらったものです。タマネギ、カブ、キャベツ、ニンジンを細かく切って、だしパックでコトコト煮るんです。

 多めに作ってストックしておき、食べるときにお醤油を足したり、塩コショウを足したり、また、そうめんを入れたりご飯にかけたりと、いろんなバリエーションが楽しめます。

 このスープと、甘酒、カットフルーツのローテーションは、私にとって、体調が悪いときに食べつなぐ「三種の神器」でした。食べものを口に入れることで、安心感も味わえましたね。

 

▲体調が悪いときの強い味方、野菜スープ。「ちょっといいだしパックを使うのがおすすめです」(れーれさん)

 

2.入院中も「食べものの恨みは怖いよ」

 

  
 これまで回入院しましたが、一度、年末年始に入院したときに絶食になってしまって。他の患者さんには年越しそばやおせちが出される中、私だけ点滴のみ、という状況はつらかったですね。

 腸の手術後は丸日ぐらい、食事はジュ―スだけでした。このときは、液体のありがたみを感じてありがたくいただきましたね。

 ご飯が出されるようになってからも、最初のころは「詰まらないように三分の一しか食べないでね」と言われていました。こちらはお腹がとっても空いていて、食べる気マンマンなんですけどね(笑)。その後、半分、八分目、とステップアップして、最終的に「全部食べていいよ」となるわけです。

 ただ、食べたい気持ちはあるものの、詰まりそうな気配もあるので、食べられないし食べない、という気持ちのせめぎあいもあり、しんどかったですね。

 

  自分が食べられないときは、周りの人が食べているもののにおいにすごく腹が立ちますね。テレビで流れる食べもののCMにさえ腹が立って(笑)、術後何日かはテレビを見ないですむようにDVDを持ち込んでひたすら見ていました。

 食事が出るようになってからは、全部写真を撮りました。どのくらいの分量なら腸に詰まらないのか、退院後に参考にしたかったので。病院でいただいた説明書を読んでも、どんな野菜をどう調理するのか、などわからないこともあったので、撮っておいた写真がとても役立ちましたね。

 私の病院では、サイドメニューが選択できたんですよ。嬉しくて、全部自分で記入したのに、後になって「大腸の手術をした方は対象外」と言われてしまって。結局ずっと、水分の多いメニューでがっかりでした(笑)。

 

 そうですよね。私は逆に、肺の手術後、「あ、メニューが選択できるんだ」って喜んでチェック印を入れてました(笑)。

 

 

3.大敵は「腸閉塞」! 私たちの「退院後の工夫」

工夫① 「自分専用トレイ」で食べた量を把握

 

  

 何をどれだけ食べるかの工夫は、退院してからが本番ですよね。

 れーれさん、大変だったことはありますか。

 

  うちは主人と息子2人がいるので、大皿にバーンと盛り付けて出していたんですね。

 でも、大皿料理をみんなと食べていると、少しだけのつもりがついもう一口、となって、自分が食べた量がわからなくなってしまって。

 そこで、退院後半年ぐらいは、自分だけ大皿廃止にしました。自分専用のトレイにお皿をいくつか並べて、先に取り分けて、食べる量がわかるようにしたんです。

 たまにみんなの大皿に手を出そうとすると、管理人からピピーっとストップがかかるんですよ(笑)。

  

 「管理人」は旦那さんですか?

  

 

    いえ、息子です。息子がすごく厳しかったんです。「(そんなに食べたら)だめって病院で言われなかった?」って(笑)。

 

工夫② ゆっくり食べのおともは「朝の連ドラ2回分」

 

  

 病院からは、時間をかけて食べるよう指導がありました。最低でも15分、できれば30分かけるように、と。食べる量も少ないのに(笑)。

 私の場合は、朝の連続ドラマを録画したものを回分見ながら食べていました。そうでもしないと、15分って意外と長いんですよ。もともと食べるのが早いほうでしたし。術後2カ月くらいは、少し食べては休みをとりつつ、時間を気にして食べていましたね。

 

  

 私も病気になるまではパパっと食べていたので、時間をかけて食べるのは難しかったですね。

 

工夫③ 少量でもさみしくない! 特製ミニタッパーお弁当箱

 

 

  私は1カ月ほどの自宅療養後、職場に復帰しました。

 お昼はお弁当を持っていくんですけど、小さすぎるお弁当箱がなんだかさみしくて。

  しかも、自分が食べられるやわらかいものを入れると、入れたものが片寄って、開けたときに残念な感じになるんですよね。

 いろいろなお弁当箱で仕切りやバランを使ってみたりしたのですが、うまくいかなくて。そこで、自分なりに考えたのが、小さいタッパーのお弁当箱です。

 トレイに、食べものを入れた小さいタッパーをいくつも並べて、トレイごとハンカチで包むんです。これなら食べやすいし、食べるのに時間もかけられるし、中身が片寄っても崩れない。しかも、大きなお弁当を食べているみたいな気分にもなれる(笑)。

 1年間くらいはこのお弁当箱を使っていたかな。今ではこの量では足りませんよ(笑)。

 

▲れーれさん特製ミニタッパーお弁当箱。一見普通のお弁当箱だが(左)、中にはトレイに乗せたミニタッパーが4つ並んでいる(右)。「トレイもタッパーも100円ショップで手に入りますよ」(れーれさん)

 

工夫④ 食卓から消えた春の味覚 ~「繊維質」を回避せよ!~

 

 

  素晴らしいアイデアですねこんなお弁当、初めて見ました…

 

 

 いえいえ、そんな(笑)。

 カロリーナさんは、食べるものの内容はどんな感じでしたか?

 

 

 大腸を手術すると、繊維質はあまり食べないようにと言われますよね。私は、小松菜などのお野菜は避けていました。あとは、たけのこ、ワカメなど、食べた形のまま便に出てくるものには気を付けていましたね。おいしい春の味覚ですが、我慢しました!

 

 

  私はどうしても食べたかったので、一度口に入れて、飲み込まずに出していました。

 

 

 えーーそれはびっくりです!

 

 

  どれだけ食べたいんだ、って思いますよね(笑)。もちろん退院直後は食べたいものも我慢していましたが、もう我慢の限界で。

 

 

工夫⑤ 外食にはハサミを持参

 

 外食が解禁になったときは、レストランにハサミを持っていきましたね。

 繊維っぽい食べものはとにかく切って。ただ、外出先のテーブルでハサミを取り出すことにもためらいはあり、ストレスに感じることもありました。

 猫舌堂さんのイイサジースプーンとフォークは食べものを切れるので、ハサミを持ち歩かなくていいんですよね。デザインが素敵なので、スプーンとフォークで切っていても違和感が無いんです。この夏結婚式に招待されているので、ぜひ持参したいと思っています。 

 

工夫⑥ 「お懐紙(おかいし)にお返し」大作戦 ~食べることをあきらめない~

 

 先ほど、一度口に入れたものを飲み込まずに出す、とおっしゃっていましたが、私は今までその発想は無かったですね。

 でも、ワインの世界でも、ソムリエが利き酒をする際、口に含んで味わった後は出してしまうんです。れーれさんの発想は、それに近いと思いました。

 

 ティッシュに出すと汚く見えてしまうので、私は茶道で使う「懐紙」を使います。「お懐紙にお返し」、するんですね(笑)。懐紙はたたむとポケット状になるので、テーブルも汚れません。かわいい柄物の懐紙も安く売っていますし、おすすめです。

 

 

  アイデアの宝庫、素晴らしいですね!

 

▲れーれさんの懐紙コレクション。たたむとポケット状に(手前)

 

4.避けては通れない「排泄」のハナシ

  

 食べることの話をしたら、排泄の話も避けては通れないですね。

 ストーマの処理には慣れましたか?

 

 最初の手術の後に一時的に作ったストーマはおへその右側にありました。現在使っている永久ストーマは「結腸ストーマ」と言って、おへその左側にあります。

 

 右と左で、全然違うんですよ。出てくるもの(排泄物)がまず違う。

 今の左側のストーマには普通の便のようなものが出るので、処理は楽です。

 ストーマが右側にあったころは、においの強い水のようなものが出るので処理が大変でしたね。トイレににおいが残るので、消臭スプレーも欠かせなくなりました

 

 外で仕事をしていたこともあって、私自身はストーマへの抵抗感が大きかったですね。

 それに、小腸から出る排泄物はお水のような形状で。こんなチャポチャポ鳴る水風船のようなものを抱えたまま仕事はできない、とWOC(ウォック)ナース*さんに相談しました。

 WOCナースさんからは、ストーマに入れる凝固剤を教えてもらいました。炭が入っているのでにおいも抑えてくれて、排泄物も黒いゼリー状になります。チャポチャポ鳴らなくなったことで楽になりました。

*WOCナース:皮膚・排泄ケア認定看護師 (詳しくは、日本創傷・オストミー・失禁管理学会の情報をご覧ください)

 

▲ストーマに入れて使う凝固剤の一例。水様の排泄物も高分子ポリマーで固まって、ストーマの中でチャポチャポ鳴らないそう。※凝固剤は、症状等に合わせたさまざまな種類があります。詳しくは、WOCナースなど医療スタッフとご相談されることをおすすめします。

 

 食べたり飲んだりしたもので、出るものも変わりますよね。

 キノコなんかは食べた形のまま出てきたり、キムチとか発酵食品を食べるとガスがすごく出たり。

 

 

 体は食べたものでできていることを実感しますよね。

 

 

 

 それに、外出先のトイレも選びますよね。

 

 

 ストーマになってから、和式トイレは使ったことがないです。

 和式だと座る場所がないので、ストーマを処理するとき床にひざまずかなくてはいけないですもんね。

 

  

 和式トイレしかない場所に行った際、床にビニール袋を敷いてひざまずいて処理したことがありました。

 

……こんな風にトイレの心配があるので、たとえば、野外フェスなどはもう行けないかなと思っていました。ところが、あるフェスの事務局に「洋式の簡易トイレはありますか」と確認したところ、ある、と言われて。そのフェスには行けたんですよ。

 あと、ドーナツ型の円座をストーマの場所に当てればうつぶせにもなれるので、円座持参でマッサージやエステにも行っちゃいます。

 

 それはぜひ試してみたいです! 

 

 

5.「食べられない」はつらいけど「次のステップ」は必ず来る

 

 3回の転移と回の入院を経験した私のモットーは、「何ごとも永遠はないんだよ!」です。つらい体調も気持ちの落ち込みも、いつか終わります。

 私自身一番つらかったのは、抗がん剤の副作用で冷たいものが食べられなかったことでした。冷たいものでのどがしびれて、プリンも、生野菜サラダも、夏の水道水すら受け付けませんでした。そういった経験を考えると、どんな温度のものも食べられることがありがたいですね。

 今は、食べものを選ぶことにも慣れましたし、大好きなワインもリスクを考えながら適量を把握して飲めるようになりました。

 食べられない時期はつらいですが、永遠に続くわけではありません。私自身は、「次はこれを食べるんだ」という目標を立てて乗り越えました。病院で出されるちょっとさみしいお食事も、次のごちそうのためのステップだと思えば、次にいただくごちそうがますますおいしくなりますよ!

 

 

 手術後にお薬の服用を始める際、「長い期間服用することになりますよ」とお医者さんに言われ、「一生お酒も飲めないんですか?」と泣きながら聞いたことを覚えています。

 病気も怖かったけれど、好きなものが食べられない、お酒も飲めない、ということがショックだったんですね。

  今は、食べる量にも慣れましたし、「今日は体調が悪いから繊維質は避けようかな」といった感覚もわかるようになりました。私の場合は特に、排泄の変化が目に見えるので気を付けやすいのだと思います。

  退院時の栄養士さんの指導では、あれもこれも食べられない、「ガーーン」とショックも受けました。そんなとき、WOCナースさんから、今は楽しめないけどもう少し経ったら〇カ月後はきっと食べられるよ、という話を聞けたことが励みになりました。

  栄養士さんの指導ももちろん正しいし、必要です。

  でも、正しい情報に加えて、「今はこのステップなんだ。その先のステップを目標にすればいいんだ」という先の見通しがつくだけでも、つらいことも少しがまんできた気がします。

 それでもやっぱりだめなら、味わって口から出す「お懐紙にお返し」でもいいじゃないですか(笑)。

 

 「食べること」に加え、他の人には相談しづらい「排泄」のケアにも取り組んできたお人。困ったり、つらいと感じたり、涙を流したり……これまで経験されたさまざまな想いを、時には受け入れ、時には鎮め、そして時には「えいやっ!」と乗り越えるための、イロイロなアイデアを語ってくださる笑顔が、とても印象的でした。

 「コロナが収まったら旅行に行きたい!」とカロリーナさん。

 「知人の息子さんの結婚式でお祝いの着物を着ることが目標!」とれーれさん。

 不安はもちろんあるけれど、自分の楽しみや目標をまっすぐ見つめる、そんなお人に元気をいただいたような、あっという間の時間でした。
 

※記事の内容はその方個人の感想・体験です。すべての人に当てはまるものではありません。

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