猫舌堂Webマガジン「一食十色」 color.7

猫舌堂Webマガジン「一食十色」 color.7

2022 ⁄ 10 ⁄ 08

一食十色(いっしょくといろ)」は、「自分の『一食一色』を持ち寄り、『一食十色』に色(=選択肢)を拡げていく」という意味合いを込めて、猫舌堂が作ったことばです。

 病気や手術などで食事に悩みを抱えたとき、

「みんながどうやって食べているのかを知りたかった」
「ほしかったのは、『正しい情報』よりも『選択肢』」
「選択肢があれば、あんなに心細い思いをせずに、心にゆとりを持って自分に合った食べかたを探せたはず」

そういった猫舌堂代表の柴田自身の経験から、この企画は始まりました。

回目を迎える「一食十色」color.7 のテーマは、

「食道を切除した後の日常生活の変化とそのつきあい方

 

今回のゲストは、食道にできたがんの手術を受けた、むらもとさんとやじーさん。むらもとさんは小腸を移植して食道の一部を再建し、やじーさんは胃を引き上げて食道の代用にしています。

おふたりには、それぞれの思い出の味についてのエピソードに加えて、「食べる」「消化する」「話す」に直結する部位の手術後大きく変化した日常生活について、そしてその大きな変化にどうつきあってきたかについて、ご経験をじっくりお話いただきました。

color.7 ゲスト

 

むらもと

 

 

やじー

■グラフの点数について

1点 障害認定を受けている
2点 障害認定は受けていないが、生活に支障がある(生活に強いストレスを感じている)
3点 障害認定は受けていないが、生活に支障がある(補助具や工夫などによって、生活のストレスはコントロールできている)
4点 障害認定は受けておらず、生活にも支障はない

  

  

1.それぞれの「思い出の味」

治療がひと区切り!鮎料理のコース ~むらもとさんの場合~

私の思い出の料理は、鮎のコース料理です。

がんが最初に見つかった後は放射線治療を受けていたのですが、治療がひと区切りしたタイミングで、「自分への『お疲れさま』とごほうびのしるしに、何かおいしいものを」と、妻と一緒に食べに行きました。鮎の塩焼き、鮎の炊き込みご飯、と鮎づくしのコースで、それなりのお値段はしましたが(笑)この際だからと奮発しました。

鮎料理と一緒に飲んだビールのおいしさも、今でも覚えています。

がんが見つかってから2カ月間ずっと控えていたので、またこうして「黒ラベル」が飲めるのか、という不思議な感覚があり、また、「生きていてよかった」と気持ちが落ち着くのを感じました。

やじーさんの思い出の一品はなんですか?

▲奥さまと舌鼓を打った鮎のコース料理と久しぶりのビール(写真はイメージです)

 

食道摘出前の「シマチョウ」食べ納め ~やじーさんの場合~

 食道の手術前に「食べ納め」のつもりで食べた焼肉ホルモン、シマチョウ(牛の大腸)です。

がんと診断された後、食道をすべて切除して胃を食道の代わりにする手術を受けることが決まっていました。

同じ手術を受けた方の体験談に「消化能力が落ちるのでホルモンはもう食べられない」というようなことが書いてあって。それなら、大好きなシマチョウを今のうちに食べておこう、と。高級店から庶民的なお店まで、さまざまなお店をめぐりましたね。

 

入院前にしっかり食べ納めしたわけですね。

 

そうなんです。ただ実は、手術後にチャレンジしてみたら、ホルモン食べられたんですよね(笑)。なので、このシマチョウのエピソード話は僕にとって、「できないと思っていたことも試してみれば、できることの幅が広がる」という希望の象徴みたいなものなんです。

……ただね、このミラクルにはからくりがありまして。

食道にがんができる方の多くが60代以上であるところ、僕は30代で発病という珍しいケースなわけです。おそらくこの若さのおかげで、手術後は食べられないはずのホルモンを消化できたのかな、と思っています。消化の悪いものを無理して食べて救急車で運ばれた話も聞きますので、決して参考にはしないでください。

▲やじーさんが何軒もめぐって食べ歩いた「シマチョウ」

 

2.ストレスのせい? のどを押されるような違和感  ~むらもとさんの場合~

 

僕は会社の健康診断がきっかけでがんが見つかったのですが、むらもとさんはどういうきっかけでしたか?

 

 最初に感じた違和感は、のどを押されるような感覚でした。2008年の秋ごろのことです。会社での業務内容が変わったタイミングでもあったので、ストレスのせいかな、と当初は思っていました

ただ、インターネットで調べた食道がんの症状と自分の症状が合っていることも不安で、翌2009年の年明けに病院を受診しました。内科や耳鼻科では異状なしでしたが、消化器内科の内視鏡検査で食道の入口に腫瘍が見つかり、その後「頸部食道がん*1」と診断されました。

「頸部食道がん」は食道がんのなかでも珍しく、手術によって声帯に影響が出ることがあります。私の場合も声帯の真裏に腫瘍があり、手術となると声帯を取ることになるため、まずは放射線と抗がん剤で治療を始める方針になりました。

 「鮎料理のコース」は、この放射線治療が落ち着いたタイミングのお話なんですね。

 

 

 そうです。2009年の秋にはがん細胞が消え、その後は半年に一度検査を受け、放射線科にも通院していました。

再発が見つかったのは2011年8月の定期検査です。最初と同じ場所、食道の入口でした。先生からは「手術するしかないけれど、手術すれば治る可能性があります」と言われました。また、手術で声帯を失っても「食道発声*2という方法を身に着ければ小さな声だけれど出るようになる、とも教えていただきました。

 

再発がわかったときはどんなお気持ちでしたか。

 

 「これまでか。来るものが来ちゃったなぁ」というのが正直な気持ちでしたね。

ただ、入院準備を進めるなかで、先生から教えていただいた「食道発声」の教室を見学したことは非常に大きな出来事でした。同じ境遇の方たちが懸命に明るく発声の練習をしておられたのですが、その姿を見て、生きてさえいればなんとかなる、と大きな勇気と希望をもらって帰宅したのを今でも覚えています。

とはいえ、入院生活はとてもつらいものでした。

手術後、次第に呼吸困難になって鼻から気管挿管をしていたときは「このままでは命が危ないのではないか」と思った瞬間もありました。最初の手術の2週間後、緊急再手術を受けました。ICUで過ごした26日間はとても長く感じられ、精神的にも打ちひしがれて本当につらい日々でした。

しかしながら、その期間を乗り越えたからこそ、退院後多少つらいことがあっても、あの病院生活に比べれば大したことはないなと思えます。

*1頸部食道がんについて詳しくはがん情報サービス日本食道学会の情報をご参照ください。

*2食道発声:手術で喉頭(声を出すための「声帯」を含むのどの器官)を切除して声を出せなくなった後、声帯を使わずに声を出す方法のひとつ。食道に吸い込んだ空気を出すときに食道を振動させて発声します。詳しくはがん情報サービス「喉頭がん」ページ記載の「発声のリハビリテーション」の内容をご参照ください。

3.自覚症状は、ほぼゼロ。前倒しした健康診断で見つかった腫瘍 ~やじーさんの場合~

やじーさんは、会社の健康診断で腫瘍が見つかったとお聞きしましたが、どういった経緯だったのですか。

 

 

僕のがんはGIST(ジスト)*3 といいます。GISTは胃や小腸にできることが多く、僕のように食道に発生するのはとても珍しいことです。

 

がんが見つかったのは、娘が生まれる直前に受けた健康診断です。娘が生まれるのを機に生命保険を見直そうと思い、数カ月前倒しで受けました。

すると、胸のレントゲン写真をみた医師から「内臓の位置が去年と比べて若干違うような気がする」と言われまして。その後のCT検査で食道に8~9センチ大の腫瘍が見つかったんです。腫瘍の影響で内臓の位置も少しずれていたんですね。

大学病院で精密検査をしてもらい、GISTと診断されました。

 

自覚症状はあったのですか?

 

 そう言われてみれば、錠剤が飲み込みにくいような気がした、という程度です。

今から思い返すと、体がむくんだり、体調が少し変だなと思うこともあったのですが、果たしてそれがGISTの影響だったかのかはわからないですね。

*3GIST(消化管間質腫瘍・しょうかかん かんしつしゅよう)について詳しくはがん情報サービス希少がんセンターの情報をご参照ください。

4.鼻と口で呼吸をしない私の日常 ~むらもとさんの場合~

手術の影響① 飲み込みのひっかかり

 ここからは、手術後の食事についてお話していこうと思います。私の場合、手術の影響は3つあります。

ひとつめは、「飲み込みのひっかかり」です。

私の場合、手術で切除した食道の上部に小腸の一部を移植し、元の食道とつないでいます。おそらくこの小腸と食道のつなぎかたの影響で、食べものがやや飲み込みづらくなるわけです。

特にひっかかりやすいのが、ステーキのようなかたいものや、ニラなど繊維がかたいものですね。無理に飲み込もうとすると、一度飲み込んだものまで戻してしまうので、注意しています。

食事中は、ひっかかりを防ぐため、のどを潤す水分が常に必要です。のどを潤す水分をすべてビールにしてしまうと酔っぱらい過ぎるので(笑)、お酒を飲むときも必ず水を手元に置いています。

手術の影響② 胃からの逆流

ふたつめは、「逆流しやすいこと」

勢いよく逆流してくるのではなく、コップを傾けるとゆっくり水がこぼれる感覚に似ています。食後は、落ちたものを拾うためにしゃがんだりしても逆流することがあります。ですから、例えば、定期的に通っているマッサージ屋さんに行く日は、施術を受けている間に逆流が起こることのないよう、予約の3時間くらい前から飲食を控えますね。

就寝時は、上半身に角度をつけたりはせず普通の枕を使っています。体の左側を下にして、胃が下に来るような体勢が私には合っているように思います。

手術の影響③ 呼吸

みっつめは、呼吸です。実は私、手術後は鼻と口では呼吸をしていません。

気管と食道が完全に分離して、空気の出入口として首の前側に穴(気管孔)が開いているんですね。

ですから、例えば、熱い食べものを口でフーフー吹いて冷ますことができません。また、鼻で空気を吸わないので、よほど強烈なにおい以外はわかりません。手術直後は、ビールを飲んだときの鼻への抜けかたや、わさびなどの刺激の感覚も手術前とはかなり違っていました。大変というよりは、「そういうもんだ」「しょうがないかな」と慣れていく感じですね。

▲むらもとさんの現在ののどの構造(左)。食道と気管が完全に独立し、首の根元に気管の出入口(「気管孔」)を開けています(出典:公益社団法人 銀鈴会

 

 

口で呼吸をしていないと、麺類をすするのも難しいですか。

 

麺類は以前からあまりすすらず食べていたので、そこまで影響はないですね。

口で呼吸をしていない、と言いましたが、実はストローで多少吸う程度ならできるんですよ。ただ、食べものを冷ますほどに「フー」とはできない。熱いものを食べると鼻水が出てしまうのですが、鼻水もすすれません。

ですので、例えば味噌汁は最後まで残しておいて十分冷めたころに食べるようにしています。もともと猫舌でもありますしね。

 

5. 「水を入れた花瓶」のような胃とつきあう ~やじーさんの場合~

手術の影響① 食後の体調不良

 僕の場合、手術の影響は4つぐらいありますね。

ひとつめは、食後に体調が悪くなること。

消化能力が落ちたことで、食後は体が「消化に全集中」の状態になってしまいます。その状態では体がつらく、万全の状態ではなくなるので、食後には重要な仕事は入れないようにしていますね。家族でレジャーに行っても、食後すぐ「次の場所に移動しよう! 」はしんどいです。

手術の影響② 食べるスピードと量

ふたつめは、食べるスピードと量が落ちたこと。

消化のためによく噛んで食べるので、周りの人のペースに合わせて食べるのが苦手になりました。大皿料理を何人かでつつくような状況ならいいのですが、1人分の量が決まっているランチは、誰かと一緒に食べるのはできるだけ避けますね。食べる量も減ったので、バイキングなんかは損した気分ですね(笑)。

手術の影響③ 胃からの逆流

みっつめは、むらもとさんと同じく、逆流です。手術の影響で、本来胃にある「噴門(ふんもん)」という逆流を防ぐ弁が無くなったので、傾けると中身がこぼれる。水を入れた花瓶みたいなものです。マッサージに行く前は飲食できないのも、むらもとさんと全く同じです。

意識がある状態なら逆立ちしても大丈夫なのですが、眠ってしまうと逆流しやすくなります。ですから、就寝時はベッドを傾けて上半身を少し起こした状態で寝るようにしています。手術前はうつ伏せで寝るのが好きだったんですけどね(笑)。

胃液や胆汁が逆流して鼻や気管に入ってくる気持ち悪さは耐え難いものがあります。逆流が原因で誤嚥性肺炎を起こした経験もあるので、僕にとって逆流は、一番つらい後遺症です。

手術の影響④ お腹を壊しやすい

よっつめは、お腹を壊しやすいこと。

食後にトイレに駆け込むことも多いです。しかも、お腹を壊すかどうかは食べてみないとわからないんですよ。同じ「唐揚げ」でも、肉の種類や使っている油、あとは僕の体調、いろんな要素のかねあいで、お腹を壊したり壊さなかったりするんです。

ただ、食べものが胃から小腸にすぐ送られてしまうので、絶対的にお腹を壊しやすい。すぐ行けるトイレが無い場所では、食事は絶対にしないです。

 

 ひとりでゆっくり食べる時間は私も取りたいですね。昔は同僚と連れ立って昼食を食べに行くこともありましたが、今は、混雑時間を避けてひとりで行くようにしています。やじーさんの会社には社員食堂があるのですか?

 

 はい、社員食堂はあります。でも僕は使わないですね。

同僚の食べるスピードにはついていけないので、僕はランチタイムのピークが終わった後に社外に出ることが多いです。女性客やご年配の方が多いお店が入りやすいですね。ご飯の量も少なめだったりしますのので。

 

6. 食道は元、小腸。食道発声と「小腸のやんちゃな本能」とのつきあい方

手術で声帯(声を出す器官)を切除したむらもとさんは、「食道発声」という方法で声を出してお話されています。大きな声ではないものの、オンライン会議ツールの画面越しでも聞き取りやすくはっきりとしたお声の秘密もこっそり(?)教えていただきました。

 

 ところで、先ほどから、むらもとさんの食道発声が聞き取りやすく、本当にすごいなと思っています。練習をすれば皆さん、ここまで自在に発声できるようになるのですか?

 

 食道発声は、鼻と口の前くらいの、ちょうどピンポン玉くらい量の空気をちょっとしたコツで取り込んで、げっぷを出す要領で発声する方法です。

うまく発声できるようになるかどうかは、人それぞれみたいですね。コツがうまくつかみにくい人もいれば、私以上に上手な人もいます。発声方法は、食道発声を含めていくつかあるので、自分に合った方法を見つけられるかどうかもポイントかもしれません。私自身は、年齢が若いことに加え、職場で話す機会が多いことも発声の上達と関係しているようです。

実は、不思議なことに、食事から時間が経つと食道が締まるような感じがして空気を取り込みにくくなり、声が出しにくいと感じます。ですから、会議が続いたり、人前で話すときは、軽く食事を取ってから話すようにしてるんです。

私が思うに、小腸の一部を移植してつくった食道なので、食事から時間が経つと小腸の「本能」に戻ってしまっているのではないかな、と。まあでも、最初の手術で移植した小腸が壊死して、緊急再手術でもう一度移植した「元小腸」なので、少しくらいやんちゃなほうがいいかな、と思っているんですよ(笑)。

 

僕自身は、食道を使ってここまで話せるようになるイメージがわかないです(笑)。

むらもとさんは、最初から「これならできそうだな」と思われたのですか?

 

先ほども少しお話しましたが、食道発声の練習をしている方の姿を手術前に見られたことが大きかったですね。みなさんが元気そうに練習されていましたし、歳の近そうな人もお見かけしたので、早く教室に通いたいと入院中から思っていました。

 自分より少し先を歩いている、「目指す人」がいたことがやる気につながって、上達したのかもしれませんね。

公益社団法人 銀鈴会

がんなどのために声帯を摘出し声を失った方の社会復帰をお手伝いする、東京都内で活動するボランティア団体です。喉頭摘出の経験のある訓練士が、食道発声のほか、電気式人工喉頭(EL)発声、シャント発声などの発声指導をしています。

 

 

7.「弱気な自分」は「ダメな自分」ではない

 

私は、食べることは人生そのものだと思っています。

手術の後、「食べること」は厳しいことやつらいこともありますが、食べるからこそ、喜びや「おいしいね」と言える幸せがあると思います。

私が最近、どんなときでも言うようにしていることを3つご紹介して、私と同じように病気とつきあっている皆さんへのメッセージとさせてください。

 

1.自分の可能性を信じること。

人間誰しも、自分が気付いている以上の可能性を持っているはずです。いろんな工夫をして少しでもよりよいことにつながればといいなと思っています。 

 

2.自分の弱さを受け入れること。

とはいえ、いつも強気ではいられないし、強気でいる必要もないと思っています。弱気になる自分もだめな自分ではなく、そういう自分も自分なんだと受け入れられたらいいなと思います。

 

3.出会いを大切にすること。

自分の可能性を信じるためにも、人とのつながりを大切にしていってほしいと思います。偶然の出会いも大切にしていけたらいいなと思っています。

 

8. 好きなものを好きなときに少しずつ

今「食べること」に困難がある状態の方と、周りでサポートする方たちに僕があえてお伝えしたいメッセージは、好きなものを好きなタイミングで食べてもいいと思うし、周りもそれを応援してほしい、ということです。

「食べること」にハンディキャップを持たない人にとって、食事の目的は大きく2つあると思います。栄養補給という「生きるための手段」と、人とのコミュニケーションやおいしさという「楽しみ」ですね。

けれども、食べること自体がしんどい人、例えば僕のような手術を受けた後の人、抗がん剤治療などで味覚障害などがある人にとって、食事は生きる手段であり、楽しみであると同時に、大きなストレスでもあるんです。

「ケア」の基本は、「相手が喜ぶことをする」ではなく、まず何より「ストレスを取り除く」ことだと僕は思っています。その考えに基づくなら、周りの方も、食べることが喜びだと決めつけたり、何としても食べさせようとしたりはしてほしくないと、僕はすごく思うんです。お叱りをうけてしまうかもしれませんが、これは僕の実感です。

僕自身、入院中は8時、12時、夕方6時のタイミングで病院食が提供されました。でも、食道を全部取ってしまった僕はそんなにたくさん食べられない、消化できないんですよ。

家族も心配して何とか食べられるようにと努力してくれて、本当にありがたかった。でも、食べることが本当につらい時期に一番嬉しいのは、「食べる行為が減ること」なんですよ。その中で、好きなタイミングで好きなものを少し食べてみる、そんなところから食べる量、食べる楽しみが少しずつ広がるようであればいいなと思います。

僕の場合、体重を落としたくなかったので、退院後はプロテインと濃厚栄養流動食をシェイクしたものを水筒に入れてチビチビ少しずつ飲んでいました。自分の体に合った種類や配合をいろいろ研究しましたね。手術後は体重が50キロ台ぐらいまで落ちると医師からも言われていたのに、結果的に70キロ台をキープできたのは、自分がとれるかたちでこまめに栄養をとっていたからかなと思っています。

 

▲やじーさんオリジナル「プロテイン+濃厚栄養流動食」などのミックスドリンク

 

加えて大切なことは、できるだけ体を動かすことかなと思います。体を動かせばお腹も減りますし。

 「こんなふうに工夫したら、食べられない方が食べてくれました」といった、ケアする側の体験談を聞くこともあります。しかしながら、自分の体験を踏まえると、「いやいや、本当はその方が一番喜ぶのは、『食べなくていいこと』なんじゃないかな」とどうしても思ってしまうんですよ(笑)。患者さんを支えている方にはぜひ、食べることがストレスにならないようサポートしていただきたいな、と思います。

 

 

「食べること」「話すこと」

どちらも、日々の暮らしでとても大きなウエイトを占める営みです。

食道の切除手術の後、「大丈夫ですか?」と安易に聞くことがためらわれるような変化を経験されたおふたり。

対談のなかで垣間見えたのは、ご自身の状況を整理・分析し、不便さを解消するための対策を練る、おふたりのビジネスパーソンとしての冷静な側面と、それをしっかりと支えるご家族のあたたかさでした。

***

食べることが本当につらい家族を目の前にしたとき、「どうにかして食べてもらいたい」という思いと「ここまでして食べなくてはいけないのだろうか」という思いの間で葛藤された方もいらっしゃるかもしれません。

100点満点の正解は、きっとどこにもありません。

「食べる」「食べない」どちらを選んでも、ある時点ではホッとしたり、またある時点では後悔したりするのかもしれません。

私たちがこの対談を通してお伝えできるのは、生きるための「食」、楽しいはずの「食」に苦しまざるを得ない経験をされた当事者の方の、生の声と想いです。

皆さんの大切なひとが「食べること」に壁を感じているように見えるとき、「正解はないけれど、選択肢をさがしてみよう」とまずは声をかけてみることを、猫舌堂はそっとご提案させていただきたいと思います。

 

※記事の内容はその方個人の感想・体験です。すべての人に当てはまるものではありません。

 

対談こぼれ話

対談に同席した猫舌堂代表の柴田(関西人)。やじーさん(同じく関西人)と即席の夫婦(?)漫才を繰り広げる一幕が。これぞ、ザ・関西人の真骨頂!


「手術後でもホルモン食べられたのは、試してみればできることの幅が広がることの象徴(ショウチョウ)みたいな・・・」

「ホルモンだけにね、ショウチョウ(小腸)、ゆうてねぇ~。あはははは」

 

「いや、ショウチョウやなくて、シマチョウやけど」

 

「ちがうか、シマチョウか(笑)、失礼しました~」