1.誤嚥の4大要因
誤嚥を起こす主な原因のひとつが嚥下障害(えんげしょうがい)です。 嚥下障害とは、加齢や病気が原因で、口の中の食べものを飲み込む「嚥下」の機能が弱っている状態です。ここでは、誤嚥の4つの主な要因を解説します。
誤嚥の要因1:加齢による唾液量の減少
高齢になると唾液の量が少なくなります。唾液の量が少ないと、たとえ食べものをしっかり噛みつぶすことができても、食べものと唾液を混ぜ合わせてまとめる「食塊(しょっかい)」を作りにくくなり、うまく飲み込みづらくなります。誤嚥の要因2:飲み込む力の低下
食べものや唾液を飲み込むには、のどの力が必要です。 加齢による筋力低下のほか、病気や病気の後遺症などで飲み込む力(嚥下機能)が弱くなると、飲み込もうとした食べものがつまったり、飲み下しにくくなったりして、誤嚥の原因となります。誤嚥の要因3:噛む力の低下
歯を失って噛む力が弱くなることも、誤嚥の大きな原因のひとつです。 かたい食べものを十分に噛みつぶせず、のどに詰まったりすることがあります。誤嚥の要因4:神経や筋肉などの病気
食べものが飲み込みづらくなった場合、神経や筋肉などの病気が隠れていることがあります。 手足が震えたり筋肉がこわばったりする「パーキンソン病」では、病気自体の症状としても、また、治療の影響でも、口の中やのどのはたらきが弱くなることがあります。発病の初期では誤嚥には気づきにくく、口の中に食べものが残りやすくなってはじめて気づくことがあります。また、全身の筋力が低下する「筋委縮性側索硬化症(ALS)」の初期症状として誤嚥が起きている場合もまれにあります。 のどにがんなどの腫瘍ができている場合も、飲み込みづらいと感じることがあります。
2.誤嚥の症状
誤嚥を起こすと、以下のような症状があらわれます。 ご自身やご家族にこうした症状が見られる場合は、病院を受診することをおすすめします。
【誤嚥の可能性がある症状の例】
- 食事中によくむせる
- 食事中に咳き込む
- 食事に時間がかかり、疲れて食べきれなくなる
- 食べものを飲み込んだ後に声がガラガラにかれる
- 食べこぼしが多くなる
- 食後に胸やけがする
- 体重が減る
- のどや胸がつかえたような感じがする
- よく痰がからむ
- 発熱を繰り返す
不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)
90歳以上の超高齢者やパーキンソン病患者では、誤嚥を起こしても咳き込んだりむせたりしないことがあります。また、眠っている間に唾液を少しずつ誤嚥することもあり、本人はもちろん、家族や医療従事者でも気づきにくいものです。この状態を「不顕性誤嚥」と呼びます。 不顕性誤嚥に気づかないまま何度も誤嚥を繰り返すと、肺の中で細菌が増え、誤嚥性肺炎を起こすことがあります。誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
誤嚥を起こした際、特に気をつけなければならないのが誤嚥性肺炎です。 誤嚥性肺炎は、誤って気管に入ってしまった食べものや唾液に含まれた細菌が肺に入り込んで起こる肺炎です。誤嚥性肺炎の主な症状は、発熱、咳、膿のような黄色い痰などです。 しかし、こうした症状がなく、普段よりなんとなく元気がない、ぼんやりしている、食欲がない、のどがゴロゴロ鳴る、といった症状だけが起こる場合もあります。
「誤嚥」(ごえん)によく似た「誤飲」(ごいん)と言う言葉があります。「誤飲」のほうが耳にする機会が多いかもしれませんね。このふたつの言葉の違い、わかりますか?
誤嚥は「飲み込んだ食べものや唾液が誤って気管に入ってしまうこと」です。
誤飲は「飲み込んではいけないものを誤って飲み込むこと」です。 抜けた歯を飲み込んでしまったり、認知症の方が薬の包装シートなどを飲んでしまうのが「誤飲」です。
医師や看護師、薬剤師などに説明する際、「誤嚥」と「誤飲」の使い分けができるとより正確に伝わりやすいはずです。ぜひ違いを覚えてみてください。
3.誤嚥を防ぐには ~2つのポイント~
誤嚥を予防するには、以下の2つのポイントがカギとなります。誤嚥を防ぐポイント1 食事の際の工夫
食べもの、食べる姿勢や食器、スプーンなどを工夫することで、食事の際の誤嚥を防げます。①食べもの
食べものを噛む力や飲み込む力に合わせた、飲み込みやすい食事を準備します。 やわらかい煮物やあんかけなどとろみのついた食べものは、噛みつぶしたり飲み込んだりしやすく、誤嚥の心配が低くなります。水やお茶などサラサラした飲みものも誤嚥しやすいため、水分補給用のゼリーなどの利用も検討するといいでしょう。
また、飲み込みやすさに配慮した嚥下食は、誤嚥を防ぐだけでなく、飲み込む力を改善する訓練になります。
嚥下食 は、飲み込む力のレベルに合わせて、やわらかさ、とろみ、口の中でのまとまりやすさ、べたつきの有無などを基に分類されているので、ひとりひとりの状態に合わせた、誤嚥しにくい食事をとることができます。
▼嚥下食についてくわしくはこちら
②食べる姿勢
食べものをのどの奥から食道にスムーズに送り込むポイントは、首を手前側に倒した姿勢をとることです。首が手前側に倒れると、食道と気管に角度がつき、気管に食べものや唾液が流れ込みにくくなるのです。座って食事をとる場合は、椅子にもたれず、前かがみの姿勢をとります。 椅子と背中の間にクッションなどを置くことで、楽に前かがみの姿勢を維持できます。
ベッドの上で食事をとる方は、状態に合わせて、リクライニング位(30度起こした状態)や座位(90度起こした状態)、頸部前屈位(頭の下にクッションやタオル等を敷き、頭が持ち上がった状態)をとることで、誤嚥を防ぎやすくなります。
また、食後の胃液の逆流と胃液の誤嚥を防ぐため、食後2時間ほどは体を起こした状態に保つようすすめられる場合もあります。
③介助の工夫
食事介助をおこなう際には、以下のポイントを工夫すると誤嚥予防につながります。- 座った姿勢で介助する(食べる人が介助者を見上げる姿勢になると、あごが上がって飲み込みづらくなるため)
- しっかり飲み込んだことを確認してから次のひと口を差し出す
- 口の中に食べものがある間は話しかけない
④食器やスプーンなどの工夫
お皿
平らなお皿ではなく、ふちが高いお皿を使うと、とろみのある食べものがすくいやすくなります。スプーン
持ち手が太いスプーンは、握力が弱くても持ちやすく、自分に合った量の食べものを口に運びやすくなります。また、スプーンの先が右に曲がっているスプーンは、少し動かすだけで口元に運べます。また、一度に口に入れる量は、多すぎると誤嚥のもとになりますが、少なすぎると時間がかかり過ぎ食べる人が疲れてしまいます。適量ずつ口に運びやすいスプーンを使うのもおすすめです。
がんや麻痺などによって食べることに苦痛を経験した方々が、食べる喜びを取り戻すきっかけを作りたい。そんな思いから看護師やがん経験者のメンバーによってオープンしたのが猫舌堂です。
猫舌堂のオリジナルカトラリー「iisazy (イイサジー)」は、「口を開きづらい」「一度にたくさん口に入れられない」など、食べることの悩みに寄り添い、嚥下障害のある方、嚥下障害の方の食事介助にあたる方のどちらもが使いやすいよう設計されています。
口の中に入る部分は1mm単位で削りだし、口の中で感じる微妙なズレを何度も改善しながら開発しました。
生きることは食べること。
食べることは生きること。
家族や大切な人との食事がもっと楽しくなるカトラリー、嚥下障害がある方にも、そうでない方にも、「くちびるが感動する」体験をお届けします。
■iisazy スプーン(左)
一般的なスプーンは厚みと角度があるため、口に入れて引き抜くときに上くちびるに「ガチッ」と当たってしまいます。iisazyは薄く平たい設計なので、口が開きづらい方でも口から「すぅー-っ」と引き抜けます。
■iisazyフォーク(右)
iisazyスプーン同様、薄く平たい設計です。幅が狭くフォークの歯が浅いので、パスタなどの麺料理もちょうどよい量を巻き取れます。
誤嚥を防ぐポイント2 飲み込む筋肉のリハビリ
誤嚥防止には、食事の工夫に加え、飲み込むために必要な筋力を改善するリハビリやトレーニングが効果的であると言われています。こうしたリハビリには、食べものを使わずに間接的におこなう「間接訓練」と、実際に食べものを使って飲み込む訓練をおこなう「直接訓練」があります。
1.間接訓練
- 上半身のストレッチ
- くちびる、舌、ほおの体操
- 早口ことば
- 発声訓練
2.直接訓練
- 食品の調整:とろみづけなど
- 交互嚥下:水気の少ない食べものと、とろみのあるゼリーなどを交互に食べる
- 複数回嚥下:ひと口の食べものを複数回に分けて飲み込む
4.誤嚥予防で食べる楽しみを
以上ご紹介したとおり、誤嚥予防のポイントは、- 食事の工夫(食べもの、姿勢、食べやすいお皿やスプーン)
- 飲み込む筋肉のリハビリ
のふたつです。 毎日の食事を工夫し、また、一日数分であってもリハビリを積み重ねることで、誤嚥予防の効果が期待できます。
さらに、万一誤嚥してしまった場合に誤嚥性肺炎を起こさないためには、歯磨きや入れ歯の手入れ、うがいといった口腔ケアも欠かせません。
口から食事をとることは、生きる意欲のみなもととなり、健康寿命を延ばすことにもつながると言われています。さまざまな工夫で誤嚥を予防し、いつまでも「食べる」を楽しめる毎日を目指しましょう。
▼高齢のご家族の食事や介護についてはこちらの記事もどうぞ