同居の家族、離れて暮らす家族が高齢になるにつれ、食事の内容や食欲不振を心配する方が増えています。
- 食欲が落ちてきている
- ご飯を食べる回数が減っている
- 同じ食べものばかり食べているので栄養のかたよりが心配
など、高齢の家族や親族、友人などが遠方で一人暮らしの場合は特に心配ですね。
本記事では、加齢にともなう食欲不振の原因と、食欲不振が引き起こす「フレイル」について解説します。また、フレイル予防におすすめの食べ方や、食べられないときの工夫も紹介します。
1.高齢者が「食べられない」5つの理由
高齢になると、身体機能の低下などが原因で、食事の内容や食事の取り方が変化していきます。
多くの場合、心配されるのは食事量や回数が減ることです。必要な栄養が十分にとれず、健康を損ないやすい状態になってしまうので注意が必要です。
食事が食べられなくなる理由は、主に以下の5つです。
「食べられない」理由① 味覚が衰える
高齢になると味覚が衰えると言われています。
人が甘さ・苦さ・塩味・すっぱさ・うまみなどの味を感じるのは、舌などにある味蕾(みらい)と呼ばれる器官です。味蕾は、加齢によって数が減ったり、タバコやアルコールなどが原因で機能が衰えたりします。
また、高齢者では、服用している薬が原因で味覚の低下が起きることも多くあります。
味覚が衰えておいしさを感じづらくなると、食べること自体がおっくうとなり、食事量や回数が減る原因のひとつとなるのです。
「食べられない」理由② 噛む力が弱くなる
加齢で口やあごなどの筋肉が減ったり、歯が悪い、入れ歯が合わないなどの理由で、食べものを噛めないことに悩む高齢者は多くいます。
特に、一人暮らしの高齢者(独居老人)の中には、新型コロナウイルスの影響も相まって人との会話が極端に減り、口やあごなどの筋肉を使う機会が大きく減った人も多くいます。
口やあごなどの筋肉が弱くなると、かたい食べものを避けてやわらかいものを好むようになり、ますます筋力低下を招くと言った悪循環にも陥りがちです。
「食べられない」理由③ 飲み込む力が弱くなる
加齢にともない、噛む力だけでなく飲み込む力も弱くなります。
飲み込む力が弱くなる原因は、唾液の分泌量が減って食べものを口の中でまとめづらくなること、また、のどなどの筋肉が衰えたり、脳での認知のはたらきが低下することなどです。
スムーズな飲み込みができなくなると、食べものや唾液が食道ではなく気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)を起こしやすくなります。誤嚥を起こすと、食べものや唾液で気管が刺激されて食事中にむせやすい、咳き込みやすい、声がガラガラになる、などの症状が出ることがあります。
噛みづらい、飲み込みづらい状態が続くと食事すること自体に疲れてしまい、食べ残してしまったり、食事への意欲が薄れてしまうことがあります。
▼誤嚥についての参考記事はこちら
「食べられない」理由④ 精神的なストレス
味覚や身体の衰えだけでなく、精神的なストレスも高齢者の食欲不振の大きな原因です。
一人暮らしのため、また、家族と暮らしていても食事の時間が合わず一人で食事をとることの多い高齢者の中には、一人の食事は味気ない、楽しくないと感じ、食べることに興味を失ってしまう人もいます。
また、噛みづらさ、飲み込みづらさのために食べられるものが減ったこと自体に落ち込み、悩んでいるケースもあります。家族や介護者に食べたいもの、食べられるものをうまく伝えられないストレスも、食欲不振の原因となることもあります。
「食べられない」理由⑤ 病気や体調不良
心身の病気も、食べられなくなる大きな理由です。
退職や親しい人との別離などの環境の大きな変化や、老化にともなう身体の衰えが原因で、老人性うつ病を発症する方がいます。老人性うつ病になると、無気力、極度の疲労感や食欲不振などの症状がみられます。
認知症になると、お箸の使い方や、どれが食べものなのかわからなくなり、一人では食事ができなくなるケースがあります。
その他、がんや胃腸の病気などが食欲不振を引き起こすことがあります。また、風邪、夏バテ、虫歯や口内炎、入れ歯の不具合など、一見、命の危険には直結しないように見える不調も、深刻な食欲不振につながる原因となりえるため、注意が必要です。
2.食欲不振が招く、危険な「フレイル」とは
高齢の家族の「食べられない」「食べづらい」状態が続いて低栄養が心配されるとき、注意しなくてはならないのが「フレイル」です。
フレイルとは、加齢によって心身ともにさまざまな機能が低下し、健康を損ないやすくなっている状態を指します。
フレイルは、「健康な状態」と「介護が必要な状態」の中間ですが、転んでケガをしたり、病気で入院したり、また、環境や人間関係が変化したり、といったことなどがきっかけで、要介護状態に進行してしまいます。
フレイルの基準
フレイルの状態かどうかを見極める基準は、以下の5つです。
これら5つのうち、3つ以上が当てはまると「フレイル」、1~2つ当てはまると「プレ・フレイル」(フレイルの前段階)となります。
フレイルの状態になると、寝たきりや介護が必要になる危険性が高まります。
フレイルの状態では、健康であれば数日で治るような風邪をこじらせて肺炎を発症したり、小さな段差で転んで骨折することもあります。また、ストレスに対する抵抗力が低下して自分の感情をコントロールしづらくなるなど、本人もご家族もつらい状況におちいりかねません。
フレイルは、早い段階で気づいて適切に対応することがとても大切なのです。
3.食生活の工夫で「フレイル」を予防しよう
フレイルは、早い段階で適切に対処することで、健常に近い状態への改善や、要介護状態への進行予防が期待できます。
ここからは、フレイルやフレイルの進行を予防するための食生活についてご紹介します。
高齢者が「食べやすい」食事でフレイル予防
フレイルやフレイルの進行を予防するために大切なのは、高齢者が食べやすい食事を用意することです。
噛む力や飲み込む力が低下した高齢者が食べやすい食事を作るには、噛みやすさと飲み込みやすさを考慮する必要があります。
食べる機能が弱くなったとしても、「口から食べること」をあきらめず充実した食生活を送ることで健康寿命が延びるとも言われています。無理なく噛めて飲み込みやすい、「食べやすい」食事を用意しましょう。
高齢者が「食べやすい」食材の選び方
食べる人の「噛む力」「飲み込む力」によって、食べやすい食材や調理法があります。 栄養バランスを考えながら、おいしく食べられる工夫をしてみましょう。
【野菜】
- 新鮮でやわらかい野菜を選ぶ
- 繊維質の野菜(ごぼう、たけのこなど)を使うときは穂先などやわらかい部分を選ぶ
- 野菜の繊維を断つ、隠し包丁を入れるなどの下ごしらえを工夫し、やわらかく仕上がるようにする
【肉】
- やわらかい部位を選ぶ。鶏肉の皮は取り除く
- 焼いたり炒めたりするより、煮込みや蒸し料理で食べやすいやわらかさに仕上げる
- 厚すぎると噛み切りづらい。トンカツなど厚みを出したいときには、薄い肉を重ねて厚みを出す
- 薄すぎても噛み切りづらい。巻いて適度な厚みを出す
【魚介】
- やわらかく、小骨が少ない魚を選ぶ
- 刺身は筋が少ないやわらかい魚を選ぶ(マグロ、ホタテの貝柱など)
- 焼き魚は脂ののった魚や水分の多い魚を選ぶ(カレイ、銀だらなど)
※食べやすい食材の選び方 関連記事(他社サイトに飛びます)
▶キユーピー「やさしい献立」 高齢期の方も食べやすい調理の工夫 |
高齢者向けのレシピ
日本最大級のレシピサイト、クックパッドでは、検索窓に「高齢者」と入れて検索すると、高齢者が噛みやすい、飲み込みやすいレシピが数多く見つかります。
実際に作った方から投稿されたレシピは参考になる点も多いはずです。
また、噛む力や飲み込む力に合わせて、介護食も取り入れてみましょう。
介護食には、通常の食事を細かく刻んだ「刻み食」、食べものをミキサーにかけてドロドロのペースト状にした「ミキサー食(ペースト食)」、とろみをつけて飲み込みやすく調整した「とろみ食」などがあります。
▼介護食の作り方についてくわしくはこちら
介護食づくりに不安のある方は、市販の介護食を試してみることもおすすめです。 やわらかさ、いろどり、味つけなどが参考になります。
▼市販の介護食について詳しくはこちら
4.高齢者におすすめの4つの「食べ方」でフレイル予防
フレイルを予防するためには「食べ方」の工夫も大切です。高齢者の方におすすめしたい「食べ方」は以下の4つです。
高齢者におすすめの食べ方① 1日3食を決まった時間に食べる
「お腹が空くまで食べない」 「朝食と昼食を兼用で食べる」 「作るのがおっくうなので食事をぬく」 などのケースは、家にいることが多い高齢者に多く見られます。
食事の回数を減らすと、必要な栄養素やエネルギーが不足しがちです。 また、一食抜いてしまうことで次の食事にドカ食いをしてしまったり、夕食が遅い時間になったりと、胃腸に負担をかけてしまうことも。
少ない量でも決まった時間に食事をとる、作るのがおっくうなときは市販の惣菜や配食サービスを取り入れるなど、無理をしすぎず、規則正しい食生活を目指してみましょう。
高齢者におすすめの食べ方② 消化の良い食べものを選ぶ
加齢によって唾液や消化酵素の分泌量は減り、食べたものの消化に時間がかかります。 そのため、消化の悪い食べものを食べると、お腹が減りにくくなるだけでなく、胃腸にも負担がかかってしまいます。
消化がよいのは炭水化物(ご飯、パン、いも類など)やたんぱく質です。
一方、野菜や海藻などに多く含まれる食物繊維は、消化されず大腸まで届く成分です。 食物繊維は腸内環境を整える役割がありますが、消化の点では食べすぎに注意が必要です。
高齢者に多い病気のひとつに胃潰瘍があります。
胃潰瘍の大きな原因は、ピロリ菌への感染と、非ステロイド性抗炎症剤(痛み止め、解熱剤)の服用、また、ストレスやお酒の飲みすぎなどです。
高齢者は、非ステロイド性抗炎症剤を含むお薬を服用していることが多く、胃潰瘍になるリスクは若年者に比べて高くなっています。しかし、非ステロイド性抗炎症剤の効果で痛みの症状が出にくいため潜在的に進行し、出血の症状が出て初めて胃潰瘍に気づくケースも少なくありません。
食欲不振が続いたり、腹部の膨満感やみぞおちあたりの痛みなどがあるときには、病院の受診をおすすめします。
高齢者におすすめの食べ方③ カロリーアップの工夫をする
低栄養を防いで体重を増やすため、栄養価の高い食べものを取り入れて、エネルギーやたんぱく質の摂取量を増やしましょう。たとえば、こんな方法があります。
- チーズ:朝食のトーストに乗せる
- 卵:卵料理を一品増やす
- ツナ:サラダに加える
- マヨネーズ:野菜をあえる(いも類のパサつきも抑えられ、食べやすくなります)
また、捕食(おやつ)として、少量で高カロリーが摂取できるゼリーやドリンクなどの栄養補助食品を取り入れたカロリーアップも手軽でおすすめです。
食欲不振に悩む人がいる一方で、肥満に悩む人も年々急増しています。 原因は、加齢にともなう内臓脂肪の増加や筋肉量の減少、運動不足、そして食事のかたよりなどです。
自分の好きなもの、食べやすいものを好きなだけ食べることは肥満のリスクを高めます。肥満は、糖尿病や高血圧、脳梗塞などを引き起こす原因です。また、肥満によって認知症のリスクが高まるとも言われています。体重増加が気になる方は、以下のような工夫で肥満を予防しましょう。
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野菜を先に食べる
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炭水化物や揚げ物を減らす
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よく噛んで食べる
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塩分・糖分の取りすぎに注意する
高齢者におすすめの食べ方④ 誰かと一緒に食べる
食事をひとりで食べる「孤食(こしょく)」がどの世代でも増えて、社会問題になっています。特に、65歳以上の高齢者では一人暮らしの割合が増加しており、2040年には、男性高齢者の20.8%、女性高齢者の24.5%が一人暮らしになると推計されています(出典:農林水産省ホームページ)。食事の時間を孤食で過ごす高齢者はますます増える傾向にあると言えるでしょう。
孤食になると、自分以外の誰かのために食事を用意する必要がなく、栄養バランスを考えないごく簡単なメニューになったり、食事自体を抜いたりするケースが増えがちです。食事を通じた会話も無いため、食べることへの意欲が薄れる傾向があります。
こうしたリスクを避けるには、誰かと一緒に食べる「共食(きょうしょく)」の機会を増やすことが大切です。
たとえば、週に1日でも家族で夕食を食べるようにしたり、地域で開催されている交流会、会食サービスなどに参加してみるのもいいでしょう。
※昨今は、新型コロナウイルス対策のため、そうした交流会が中止になっているケースも多いようです。ご興味がある方は、お住まいの地域の社会福祉協議会や地域包括支援センターなどに問い合わせしてみてはいかがでしょうか。
5.食欲のないときは、3つの工夫でフレイル予防
せっかく作った食事を食べられないとき、「また残したの?」「ひと口でいいから食べて」 とつい声をかけたことのある方は多いはず。
けれども、それは逆効果かもしれません。
食べられないことに一番困っているのはご本人です。食べられないつらさをわかってもらえないことで、心を閉ざしてしまうこともあります。
ここからは、高齢の家族の食欲がわかないときの3つの工夫を紹介します。
食欲のないときの工夫① 少量ずつ盛り付ける
食欲のないとき、食欲を刺激しようとたくさんの料理を並べることはありませんか。 実はそれがプレッシャーになっているかもしれません。
「この量なら食べきれそう」と思えるよう、少なめに盛りつけてみましょう。
お箸やスプーンなどの食具(カトラリー)を使うのもおっくうな様子の場合は、手でつまんだり、楊枝で刺したりできる形でお皿に並べてみてもいいでしょう。
食欲のないときの工夫② 五感を刺激する
調理前の食材のいろどりを一緒にながめる、野菜を刻む音やぐつぐつ煮る音を一緒に聞く、匂いをかぐなど、調理の過程を五感で感じることで食欲が刺激されることがあります。
料理を楽しめそうな場合は、味見をしながら一緒に調理してみるのもいいでしょう。台所に椅子を準備したり、ダイニングなどで座りながら作業するなど、疲れてしまわない工夫もしてみましょう。
食欲のないときの工夫③ 食べる環境を変える
食べる環境を変えることで食欲がわくこともあります。
家族やご友人と一緒に会食したり、外食したりすることで食が進むかもしれません。 外食が難しいようであれば、庭や近くの公園など、家の外の空気を吸うだけでも食欲が刺激されることがあります。
家の中で食べる際に音楽をかけてみると気分が変わります。ただし、食べるための集中力が落ちるのでテレビや動画をつけるのは避けたほうがよいでしょう。
がんや麻痺などによって食べることに苦痛を経験した方々が、食べる喜びを取り戻すきっかけを作りたい。そんな思いから看護師やがん経験者のメンバーによってオープンしたのが猫舌堂です。
猫舌堂のオリジナルカトラリー「iisazy (イイサジー)」は、「口を開きづらい」「一度にたくさん口に入れられない」など、食べることの悩みに寄り添い、食べることにお悩みがある方もそうでない方も、みんなが使いやすいよう設計されています。
口の中に入る部分は1mm単位で削りだし、口の中で感じる微妙なズレを何度も改善しながら開発しました。
生きることは食べること。
食べることは生きること。
猫舌堂は、食欲が低下した高齢者の方にも「くちびるが感動する」体験をお届けし、「もう少し食べてみよう」の気持ちを引き出すお手伝いができればと願っています。
■iisazy スプーン(左)
一般的なスプーンは厚みと角度があるため、口に入れて引き抜くときに上くちびるに「ガチッ」と当たってしまいます。iisazyは薄く平たい設計なので、口が開きづらいかたでも口から「すぅー-っ」と引き抜けます。
■iisazyフォーク(右)
iisazyスプーン同様、薄く平たい設計です。幅が狭くフォークの歯が浅いので、パスタなどの麺料理もちょうどよい量を巻き取れます。
高齢のご家族の食欲不振が気になる方は、イイサジースプーンを贈るのもおすすめです。
「食べること」は毎日続きます。
イイサジースプーンはそんな日々の食事に寄り添う「いたわりデザイン」です。
▼詳しくはこちらから6.高齢者にとって「食べる」は重労働
高齢者が食事を「食べられない」理由は、味覚の衰え、噛む力や飲み込む力の低下、精神的なストレス、そして病気や体調不良などです。 「食べられない」状態からの低栄養状態、そしてフレイル状態を予防するためには、食べることを楽しめるような工夫をしてみましょう。
- 1日3食を決まった時間に食べる
- 消化の良い食べものを選ぶ
- カロリーアップの工夫をする
- 誰かと一緒に食べる
- 少量ずつ盛り付ける
- 五感を刺激する
- 食事をとる環境を変える
- 家族と一緒に同じカトラリーを使ってみる
筋力や体力が低下してきた高齢者にとって、「食べる」ことは重労働です。
箸やスプーンを口に運ぶこと、噛むこと、飲み込むこと、まっすぐ座ること。 これら全部を同時におこなうのは、周りが思っている以上に大きな負担です。
高齢者の食べたい気持ちを呼び起こすには、こうした負担を上回るような工夫が必要です。
「これさえやれば、食欲アップ!」と言う方法は、残念ながらありません。
「食べられない」「食べる気が起きない」と言うご本人の気持ちを否定しすぎず、好きな食べものの思い出を話してみる、食べもののいろどりを楽しんでみる、など、まずは寄り添うことから始めてみませんか。
「生きることは食べること」
猫舌堂は、食べる楽しみを取り戻したい皆さんを応援しています。
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